過去2回の発言は米国内でメディアのインタビューなどに答えたものだが、今回は日米首脳会談から日米豪印(QUAD)首脳会合へと続く外交の舞台で飛び出した言葉だ。日本や各国の首脳に与えるインパクトは大きい。
日米首脳共同声明では、「日米同盟の抑止力、対処力を強化」「日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保」「中国の東シナ海、南シナ海における一方的な現状変更に反対」などの強い文言が盛り込まれ、日米同盟を基軸に対中強硬論に一致を見る形となったのである。
シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表の猿田佐世弁護士はこう指摘する。
「軍事力強化ばかりがうたわれ、外交努力や対話についてはほとんど触れられていません。昨年4月、当時の菅義偉首相とバイデン氏との共同声明でおよそ半世紀ぶりに『台湾海峡の平和と安定』を明記した時、ある中国研究者が『日米同盟が対中同盟になった』と警鐘を鳴らしましたが、今回はまさに対中同盟そのものです。米中覇権戦争に日本を巻き込んで、日米中対立の構図を確固たるものにした『巻き込まれサミット(首脳会談)』だったというほかありません」
朝日新聞が5月3日の憲法記念日を前に実施した全国世論調査では、最近の日本周辺の安全保障をめぐる環境について、どの程度不安を感じるかとの設問に、「大いに感じる」は60%、「ある程度感じる」は36%。不安を感じる人が実に96%に上った。ウクライナ情勢が人々の心に影を落とし、世論は急変している。猿田氏がこう懸念を示す。
「ロシアの侵略行為は許されませんが、武器を持って戦うことを美化するような空気になっています。まずは、戦争を起こさせない環境作りが最優先ということが忘れられている。国を守ることより、個人の命のほうが大事だということは先の大戦の教訓であり反省です」
■中国の台湾攻撃 「失敗」した過去
5月24日には、中国のH6爆撃機4機と、ロシアのTU95爆撃機2機が日本周辺を長距離飛行。翌25日には、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)1発を含む計3発のミサイル発射実験を行うなど、周辺各国は即座に反応しており、緊張は高まるばかり。昨年3月、デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)は「27年までに中国が軍事力で台湾統一に乗り出す可能性が高い」と発言したが、台湾侵攻に現実味はあるのか。
軍事評論家の前田哲男氏はこう話す。