「世界の警察官」路線の復活なのか。バイデン米大統領のアジア歴訪は、台湾防衛についての“前のめり”な発言が飛び出すなど波乱含み。それに同調するだけだった岸田文雄政権は、危険なゲームに巻き込まれようとしているのかもしれない。
【写真】日米首脳会談の歓迎行事での岸田文雄首相とバイデン米大統領
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賽は投げられたのか。5月23日の日米首脳会談後の記者会見で、中国による軍事侵攻を念頭に「米国は軍事的に台湾防衛に関与する意思があるのか」と問われ、バイデン大統領は「イエス、それが我々のコミットメント(誓約)だ」と明言した。
歴代米政権は中台関係の微妙なバランスに配慮し、台湾防衛の意思を明らかにしない「あいまい戦略」を取っており、政策の転換かと内外に驚きが広がった。
バイデン氏は昨年2回、同様に台湾防衛の義務があるとの見解を示した。その度にホワイトハウスの報道官は火消しに追われ、台湾を自国領の一部と見なす中国側の原則を踏まえた「一つの中国」政策を維持していると釈明した。今回も翌日には、バイデン氏自らが「米国の政策は何も変わっていない」と修正。このため、失言だったとの見方もある。だが、米国政治に詳しいジャーナリストの堀田佳男氏はこう語る。
「バイデン氏は6期36年の上院議員時代は外交委員会の委員長を歴任するなど“外交通”として知られ、オバマ政権で2期8年、副大統領を務めています。重要な台湾問題で『一つの中国』政策を失念するわけがなく、ロシアのウクライナ侵攻を意識していることは間違いありません。発言をくり返すことで、『あいまい戦略』から『明確路線』に変えていこうとの意図が感じられます」
実際、ロシアのウクライナ侵攻を抑止できなかったことが後押ししたのか、米国内でも同調する声が上がっているという。
「バージニア州選出の民主党の下院議員は『台湾問題をあいまいにしている時間は終わった』と発言し、アーカンソー州選出の共和党の上院議員は『米国の台湾政策は戦略的明確さへと軸足を移すべき』と語っています。対中強硬姿勢には民主・共和の区別はなく、バイデン氏には中国へのメッセージとともに、国内世論喚起の目的もあるのです」(堀田氏)