撮影:GOTO AKI
撮影:GOTO AKI

■日本の風景は地球の一部

 10年ほど前、GOTOさんの作品を初めて見たときのことははっきりと覚えている。(ようやく、誕生したばかりの日本の大地に着目する風景写真家が現れた)と、思った。

 地球規模で見ると、日本というのはかなり特殊な場所で、ほかの地域と比べて変化のスピードが相当速い。地殻変動が激しいため、地震や火山の噴火が頻発し、地表は絶えず更新され続けてきた。

 風光明媚(めいび)な自然の姿もいいけれど、ダイナミックに変化する日本の自然の核心部分を、グイっととらえるような風景写真家が現れないかと、ずっと思っていたのだ。

 GOTOさんは「日本の風景を、地球の一部という視点で撮ってきた」と語る。そんな視点を持つようになったのは30年ちかく前、大学時代の世界一周の旅がきっかけという。

「なるべくバスや列車で移動したので、自分の中にこの惑星の大きさというものが刻まれています。そういうスケール感を下敷きに日本の風景を見るようになりました」

 例えば、北アルプス。世界有数の豪雪地帯として知られるが、夏を過ぎるころには、大量に降った雪のほとんどが消えてしまう。

「そんな場所って、世界中でも日本にしかないんだと、気づいた」

 いままで気にも留めなかった風景の意外な面白さが、新鮮に見えた。

撮影:GOTO AKI
撮影:GOTO AKI

■遠くの星雲が微生物とそっくり

 さらに「いま、ぼくらが見る日本の風景の背後には、地球の、惑星としての活動があり、その向こう側には宇宙が広がっている、という認識があります」。

 宇宙ははるか昔、ビッグバンで誕生した。その後、星が形成されて、爆発。拡散した物質がくっつき合うなかで惑星が生まれた。

「いきなり冒頭で、『事象の地平線』とか、『ブラックホール』と言うと、話が飛躍していると思われるかもしれませんけれど、ものすごく遠くのスケールの大きな事象と、目の前で起きている事象というのは、私のなかではつながっているんです。似たようなことが、いろいろなところで多発的に起きているのではないか、という思いがあります」

 GOTOさんは毎朝、米航空宇宙局(NASA)のホームページを見るのが日課という。

「そこには宇宙空間から見た地球の地表の映像とか、とんでもなく遠い場所にある星雲や銀河の映像が日々アップされている。日本の風景を地球の風景と言うには、やはり、そういったものを下敷きとして見て、地球の風景とは何か、常に知っておきたいんです」

 そんな映像を見て、「わあ、同じだ」と、感じることがある。

「自分が写した写真と、けっこう似たような造形があったりするんです。例えば、遠くの星雲が、私が普段歩いている山で写した岩に張りついている微生物、地衣類とすごくそっくりだったりする。つまり、距離や大きさがまったく違うのに『相似形』であることを感じる」

 一見すると、まるで無関係に思えるようなものであっても、自然界の複雑な構造には普遍的な形状が存在する。そんな非線形物理の世界が最近、コンピューターの発達によって詳しく解析できるようになってきた。

「それは人間が意図的に作ろうと思ってもなかなかできない造形で、そんなところにすごくひかれます」

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