日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。板橋・大山の商店街で手作りにこだわったラーメンを作り続ける店主が愛する一杯は、繁華街・池袋で敢えて時代に逆行する形で作ったしょっぱくてクセになる塩ラーメンだった。
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■コロナ禍でも売り上げは変わらない 板橋のラーメン店の秘密
板橋・大山の遊座大山商店街で12年続くラーメン店「morris(モリス)」。外食チェーン「大戸屋」から長年の夢であったラーメン店に転身した松田徹時さん(46)の営むお店だ。海苔以外はすべて自家製というこだわりようで、魚介と豚のWスープに太めの自家製麺を合わせたシンプルながら味わい深い一杯が人気だ。
オシャレなカフェ風の外観は女性一人でも入りやすく、カウンター11席すべてが女性客で埋まることもある。厨房はいつもピカピカに磨かれていて、ここには「大戸屋」で培ったおもてなしやクリンリネスが生きているという。
コロナ禍でラーメン店も大打撃を受けているが、「morris」の売上は落ちていない。客の半分を占める常連たちに支えられているからだ。地域に根差した店作りが功を奏している。
創業10年を迎えた2018年には、2号店「藍庵(あいあん)」を徳島県海部郡にオープンした。店主の松田さんに縁もゆかりもない徳島での展開は、業界を驚かせた。
「知人に紹介してもらった古民家でしたが、一目惚れしてしまいました。田舎は生産者と距離が近いのが良い。徳島の地鶏『阿波尾鶏』を使った中華そばを提供しています。徳島の食材の良さをそのままダイレクトにラーメンで表現できます」(松田さん)
今や徳島が第二の故郷だ。1カ月のうち1週間は徳島の店の厨房に立つなど、地元の視点を大事にしている。今年4月に緊急事態宣言が出て、徳島に行けなくなった期間は店の休業も考えた。だが、一人でもラーメンを求める人がいるなら店を開けなければいけないという使命感から、営業を続けたという。
「コロナ以前から店のスタッフとは朝と夕方にLINEのビデオ通話で仕込みや営業の確認をしていたので、リモートの最先端だったんですよ(笑)。東京と徳島を行き来することで料理人としての引き出しも増えて、『藍庵』の人気メニューを『morris』で提供することもあります」(松田さん)
そんな松田さんの愛するラーメンは、池袋で塩ラーメン一本で勝負するしょっぱくてクセになる一杯だった。