かために上げた麺もラーメンを引き立てている(筆者撮影)
かために上げた麺もラーメンを引き立てている(筆者撮影)

 すると08年、ついに転機が訪れる。“ラーメンの鬼”「支那そばや」の故・佐野実さんがテレビの取材で桑原さんのラーメンを食べに来たのだ。

「昔からテレビで見ていた佐野さんが、目の前で自分のラーメンを食べてくれるというだけで緊張しました。撮影の後に、『これめちゃくちゃ旨いよ』と言ってくださって、これで自信が持てるようになりました」(桑原さん)

 その後、塩ラーメンの名店として名前が広がっていき、13年には屋号を「塩そば専門店 桑ばら」とする。塩は味がダイレクトに伝わる一方で、旨味が少ないため、「塩ラーメンは難しい」と言われている。タレに頼らず、岩塩だけで独自のラーメンを作った桑原さんの功績は大きい。

店に掲示されているお客様アンケート(筆者撮影)
店に掲示されているお客様アンケート(筆者撮影)

 その桑原さんが衝撃を受けた一杯が、08年にオープンした「morris」のラーメンだった。濃厚な豚骨魚介が全盛の中、時代に逆行したような松田さんのラーメンに驚いたという。

「淡麗なスープに、稲庭うどんのようななめらかな麺。旨すぎてすぐに食べたくなり、結局1週間毎日食べに行きました。そこでたまらず声をかけたんですよね。この人は凄い人だと、一回食べてすぐに思ったんです」(桑原さん)

 松田さんもその時の桑原さんの言葉を忘れていなかった。

「『これマジで旨いよ。同業が言うんだから間違いないよ』と言ってくれたんです。ちょうど自信をなくしかけていた頃だったので、その言葉がすごく励みになりました。桑原さんは今も私の相談役です」(松田さん)

「桑ばら」の丼に記された言葉(筆者撮影)
「桑ばら」の丼に記された言葉(筆者撮影)

 時代に流されず、自分の信じた味を追求した先に繋がった二人。その選択が正しかったことは、両店ともが10年以上続いていることが証明している。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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