32年間の支援活動でホームレス状態から自立した人は3400人超。「どんな困難にある人も断らない」が信念(撮影/横関一浩)
32年間の支援活動でホームレス状態から自立した人は3400人超。「どんな困難にある人も断らない」が信念(撮影/横関一浩)
この記事の写真をすべて見る

※本記事のURLは「AERA dot.メルマガ」会員限定でお送りしております。SNSなどへの公開はお控えください。

 「ホームレス」と「ハウスレス」は違うのだと奥田知志は言う。路上生活者を救うには人との絆が絶対に必要だ。奥田は行き場のない困窮者たちの「ホーム」を作るために、32年間走り続けてきた。3400人もの路上生活者が自立した。今、障害者もシングルマザーも元受刑者も、奥田を頼りにやってくる。困っている人すべてに手を差し伸べる。家族だから。

 福岡県北九州市八幡東区にある奥田知志(おくだともし)(56)の家の正月は、一年で最も忙しく、賑(にぎ)やかな夜を迎える。元日恒例の新年会。重箱に敷き詰められた手作りのおせちを前に、およそ50人の老若男女が食卓を囲む。確かに「家族」であることには変わりはないのだが、この場に集まっているのは肉親ではない。多くが元ホームレス・路上生活者であり、本当の家族のもとには帰ることができない何がしかの理由を抱えている人だ。奥田が理事長を務める「NPO法人抱樸(ほうぼく)」は、困窮者支援のプロフェッショナルとして、こうした行き場のない人々に寄り添い、手を差し伸べてきた。

「ホームレスの自殺が多発するのは年末年始なんです。なぜならば、正月やクリスマスは家族の時間だから。街は『幸せな家族』を連想させる空気に覆われ、それが路上で生活する、家族とは孤立・無縁の人々には耐えきれないのです。これまで年末のパトロールで何人もの首を吊(つ)った人をおろし葬式をあげてきました」

 奥田はずっと考えていた。ホームレスとは誰か――。そして一つの「解」に行き当たる。それは「ホームレス」と「ハウスレス」は違うということだ。「ホームレス」とは、一般的には「野宿者」を意味し、衣食住のあらゆる面で窮乏状態に置かれている人々をさす。しかし、住宅に象徴される経済的、物理的な困窮に陥った状態を解決するのは、あくまで「ハウスレス」支援であり、それと同時に孤独で無縁な野宿者が「ホーム(home)」、つまり、家ではなく、家族、友人、知人など、人と人との絆を取り戻すことが絶対に欠かせない。

■質よりも量を重視して他人を家族として繋げる

 新年会に参加していた元ホームレスの西原宣幸は今、ホームのありがたさを実感しているという。路上生活は11年間に及んだ。

「路上生活者の多くは、最後は畳の上で死にたいと言います。けれども自立してアパートに入り、これで一安心と思いきや、今度は俺の最期は誰が看取ってくれるのだろうかと不安になる。つまり家が手に入っても喋(しゃべ)る相手が誰もいないのでは、ひとりで路上生活していたときと何も変わらないのです」

 この新年会に集まるのは元ホームレスだけではない。障害のある人、シングルマザー、刑務所出所者……。奥田は普段からこうした一人で生活するのが難しい人々を自宅に招き入れ、時に共同生活を送ってきた。奥田にはSEALDsを立ち上げた長男・愛基(あき 27)、長女・光有(みう 22)、次男・時生(とき 19)の3人の子どもがいるが、学校の先生や友だちに「何人家族?」と聞かれて、「えーっと」と答えに窮する逸話は、きょうだいの間で語り草となっている。

次のページ