小学生の頃からの、実家でのもてなし料理の手伝いからはじまった、料理上手の知人は、食に敏感でレストランやおいしいものを教えてくれる。私はおいしいものを食べるのはうれしいし、幸せな気持ちになるけれども、食べ歩きには興味もないし、積極的においしい店を探す努力もしない。すべて周辺の食関係に興味のある人からの情報ばかりである。ある日、彼女が魚の味淋粕漬のおいしいものがあると教えてくれた。私は会食をしていて、出されれば食べるが、自分で作ったり買ったりするほどではない。彼女はお弁当にも入れていて、

「たまに食べるとおいしいわよ」

 といっていたので、「鈴波」の特にお薦めの銀だらの味淋粕漬を買ってみた。いつも行くデパ地下に入っていたのを全然、知らなかった。個包装になっていて、1枚ずつ買えるのがありがたい。ただし値段が1080円なので、いつも買うというわけにはいかないが。切り身はガーゼに包まれていて手間がかからず、簡単に取り除くことができた。フライパンで焼いた久しぶりの味淋粕漬はとてもおいしく、やみつきになりそうだった。冷凍ができるとわかったが、買い置きしているとこればっかり食べて食生活が偏りそうだったので、必要なときのみ、買うようにした。

 後日、銀だらがおいしかった話を彼女にすると、同じ大和屋守口漬総本家が出している、「チーズ味淋粕漬 はちみつレモン味」をもらった。クリームチーズの漬物で、彼女は家に常備していて、ワインのお供に最高なのだという。私はチーズもアルコールも苦手なので、晩御飯の後、おずおずと食べてみたら、そのおいしさにびっくりした。酒粕が入っているので、食べた後にちょっとぼーっとしたが、チーズのこってりさが薄まり、レモン果汁のおかげでさわやかな風味になっていた。

 これを店頭で見たとしても、私は絶対に買わなかっただろう。しかし料理上手、かつ積極的においしいものを求める友人によって、私の食生活も少しずつ広がっていく。料理好きの人は、おいしいもの全般に関して、積極的にトライしている。やっぱり料理好きの人というのはいいものだと、そのおこぼれに預かった私は、生まれてはじめて口にした味に、この歳になって感激したのだった。

※『一冊の本』2019年7月号掲載

※本記事のURLは「AERA dot.メルマガ」会員限定でお送りしております。SNSなどへの公開はお控えください。

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ