「はあ~」

 想像もしていなかった、まさかの理由に私は何もいえなかった。彼女たちが住んでいる家には、複数口の調理可能なガス台か、IHクッキングヒーターが設置してあるはずだ。学生下宿のように一口しかないわけではない。それでも何品も料理を作る人は、段取りを考えて作れるのだが、彼女たちはせっかく複数口の調理器があるのに、それらをフル活用できない。

「それは疲れるわ」

 母親たちのいい分に私はいちおう納得した。私だって毎回そんな作り方をしていたら、へとへとになる。御飯を炊くのは炊飯器だからいいものの、たとえば煮魚、おひたし、味噌汁が献立だとして、それを一品ずつ作っていたら、時間もかかるし、第一、最初に作ったおかずが冷めてしまうのは当然だ。彼女たちのいい分は認めたものの、

「どうして複数のことを、一度にできないのか」

 と不思議に思ったのも事実である。

 私が若い頃は、献立の複数の料理を作るには、それらが最終的にいちばんいい状態で出来上がるように段取りを考え、頭を使って作らなくてはいけないといわれていた。それは料理においての当然の常識と思っていたが、今は違ってきたらしい。並行して調理ができずに無駄な時間を費やし、そのあげくに作り手のエネルギーが残っていないのだから、食事が単品になるのは、当然といえば当然なのだった。

 何年か前、たまたま書店でみかけた、献立に重点を置いた料理本に、「ここでお湯を沸かす、炒め物用の野菜を切る……」などとあり、どうしてこんなに経過を細かく書く必要があるのだろうかと思っていたのだが、献立全部を一度に仕上げるためには、こういった懇切丁寧な本が必要だったのだ。

 並行して調理をするためには、ある程度、いくつかの料理を作った経験があり、それぞれの調理にどのくらいの時間がかかるか知らないと、難しいのかもしれない。様々な事柄を類推する想像力も必要だ。そんな練習をする機会がなければ、身につかないのかもと思いながら、それにしてもぴたっと同時に出来上がらなくても、それなりに複数のおかずを作れるはずだが、そういったことはしてこなかったのだろう。最近は本ではなくインターネットのレシピサイトを使う人が多いようだ。単品の作り方を教えてくれるのは知っているが、並行して複数のおかずを作るために、細かい段取りを指導してくれるようなサイトはないのか。彼女たちが並行して調理が作れないところをみると、手取り足取りのサイトはまだないのかもしれない。

暮らしとモノ班 for promotion
「プラレール」はなぜ人気なの?鉄道好きな子どもの定番おもちゃの魅力
次のページ