イラスト:オカヤイヅミ
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 知り合いの料理上手のPさんが、12月に入ってすぐ、部下の女性数人と忘年会をした。出席したのは就学前の幼い子供を抱えた人ばかりで、Pさんはいつも彼女たちに、

「小さい子供がいて忙しいから大変だけど、食事は大切だから疎かにしないようにしてね。買ってきたお惣菜を並べるだけではなくて、ちゃんと御飯を作ってね」

 と話していた。そういわれ続けているので、そのうちの1人、AさんがPさんの顔を見るなり、

「昨日の夜はちゃんと御飯を作りましたよ」

 とアピールしてきた。

「それは立派ねえ。何を作ったの」

「たらこパスタです」

 Aさんは胸を張った。

「子供はパスタが好きだものね」

「たらこに生クリームとバターを混ぜてソースにして、子供もパパもとても喜んで食べてくれました」

「それはよかった。それと?」

 Pさんの言葉に、Aさんはぎょっとした顔になって黙った。Pさんもあれっと思ったが、彼女が何かいうだろうとじっと顔を見ていた。

 すると2人が黙ったのを見たBさんが、

「私も昨日の夜はちゃんと作ったんですよ」

 と2人の間に割って入り、得意げにPさんに話しかけてきた。

「あなたもえらいわね。何を作ったの」

「お好み焼きです」

「粉ものもみんな好きよね」

「はい、みんな喜んでくれました」

「それはよかったわね。それと?」

 するとBさんもぐっと言葉に詰まり、黙ってしまった。Pさんは、あれっと首を傾げ、

「どうしたの? その他にも何かあるんでしょう。たらこパスタやお好み焼きの他に何を作ったの?」

 というと、顔を見合わせて、

「いえ、それだけですけど」

 という。

「えっ、それだけ?」

 Pさんが驚くと、それを見た2人は、

「いったいどこがいけないんですか。私たち、ちゃんと晩御飯を作ったんですけど」

 とあちらも驚いている。

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