宮崎市在住の会社員田中雅廣さん(58)と、妻の房子さん(57)だった。聞けば、18歳9カ月だった愛犬を昨年に亡くし、さみしくなったので今度は猫を飼うことを決めたのだという。房子さんは「一生大事にしますからね。私たちもこのコたちと楽しい生活を送らせてもらいます」と言ってくれた。私は何度も頭を下げた。2人と2匹を見送り、「お幸せに」とつぶやいた。
帰宅すると、我が家の「先住民」の猫が出迎えてくれた。妻は「立派に育てたよ。ウチの子が幼いときはいつも私任せだったけど、今回は責任感をもってしっかりやってた」と皮肉交じりにほめた。私は上の空で聞き流しながら、ウリ坊とペロと過ごしたキラキラした思い出にひたっていた。
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保健所や動物愛護センターに引き取られ、殺処分される野良猫は全国で2万6418匹(2020年度)。1日に70匹程度が人の手で命を絶たれている計算だ。全体の約6割を幼齢の猫が占める。
行政の殺処分は、(1)重篤な病気やけがで譲渡できない(2)譲渡先が見つからない、施設に収容しきれない(3)引き取った後に老衰や幼齢、病気などで死んだ――の3分類がある。宮崎県動物愛護センターの獣医師・久保明子先生は、宮崎県では3年連続で(2)がゼロで、(1)(3)の大半が子猫である実情を踏まえ、「手当の甲斐なく死んでしまう子猫も殺処分に数えられてしまう」と訴える。
公益財団法人どうぶつ基金(兵庫県)の佐上邦久理事長は「子猫を減らすことが殺処分の減少につながる」とし、全国でTNRを進めている。野良猫を捕獲(Trap)し、不妊手術(Neuter)をし、もとの場所に放す(Return)活動で、繁殖を抑える。
子猫の養育やTNRを担う「猫ボラ」への期待は大きい。活動内容=下記の一覧参照=は多岐にわたる。いま、熱心な人に仕事が集中するのが大きな課題になっている。
宮崎市を拠点に猫ボラを続ける主婦の山本清美さん(55)は、この8年で1万匹以上のTNRにかかわってきた。自費で購入した捕獲器を35個も保有し、保護や捕獲のためにマイカーで年間数万キロも走り回る。譲渡できなかった猫も含め、自宅では約20匹を飼っている。「私はおバカだから(笑)、こんなにがんばっちゃってるけど、みんなが同じように動けるはずはない。少しずつでいいから、より多くの人が参加してくれたら、かなりの子猫が救えるはずです」と話す。