同時にあくびをするウリ坊(右)とペロ
同時にあくびをするウリ坊(右)とペロ
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 初めてのミルクボランティアで預かったウリ坊とペロ。よちよち歩きだった赤ちゃんも、1カ月余りで子らしい体格になってきた。かわいい成長期に寝食を共にしていたら、愛着は深まる。しかし、「別れ」はミルボラの宿命。人の手を必要とする猫はほかにも、いっぱいいるんです。

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 8月に会社を辞め、メールも電話も激減した。望み通りでもあったが、誰からもアテにされないというのはさみしくもある。社会的には無用の長物。鏡の前に立つと、額がはげ上がり、腹にでっぷりと肉のついた無残な姿が映る。亡くなった山本コウタローの「♪僕はどうして生きていこう」のフレーズが脳裏をよぎる。

 ところが、どうだ。ウリ坊とペロはそんな男に全力で甘えてくる。読みかけの新聞をくしゃくしゃにされても、カーテンを爪でひっかかれても、なんでも許せた。買い物など外出は短時間で済ませた。大好きな釣りはもちろん、一切の遠出は控えた。友人に招かれたホムパでも、ハローワークの求職者説明会でも、2匹のことが気になって集中できなかった。

【24日目】庭の畑でオクラやスイフヨウを食害するフタトガリアオイガの幼虫を駆除する。子猫はかわいがり、ガの幼虫は容赦なく殺す。この幼虫にも親があろうに。庭の畑で収穫したサツマイモで鬼まんじゅうを作った。2匹に食べさせようとしたが、無関心。試しにドライフードを与えると、2匹ともポリリとかんだが、大半を残した。

【31日目】朝、皿に入れたドライフードを初めて完食。いよいよお別れの時期が近づいてきた。

【39日目】よちよち歩きの赤ちゃんだった2匹も、子猫らしくなってきた。「体重600グラムまで育てるのが一応の基準」と聞いていた。当初は約300グラムでジュース缶くらいだった2匹の体重は、量ってみたらそれぞれ800グラムに達していた。

 11月8日。宮崎県動物愛護センターの入り口でしばらく立ち尽くした。手にしたキャリーケースの中から、ウリ坊もペロも神妙な顔で私を見つめている。いよいよお別れだ。ウリ坊がニャーと鳴いた。その声はまだ幼い。手放しがたい思いがこみ上げる。2匹をセンターにお返しし、後ろ髪をひかれながら帰路に就いた。ずっと私のことを覚えていてくれるだろうか……。

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たとえ記憶に残らなくても…