身体化された記憶というのは感覚的なものですが、記憶が客観的なデータとしてストレージされているのではなく、体験や知識がすぐに血肉化してしまうのでどこからが取り込んだものなのか元からあるものなのかわからなくなってしまうのです。しかも自動翻訳されるので、言葉一つでも身のうちから湧き出たものに書き換わってしまう。

 大人になってからアナウンサーの仕事をしている時にも、紙に書いてあるものをその通りに言うというのがとにかくできませんでした。「それではこの後、衝撃の結末をVTRでご覧ください」という簡単な一言でも、どうしても違う文言になってしまうのです。どれだけ我の強い脳みそなんだよ! と我ながら呆れましたが、できないものは仕方がない。その代わり、台本にないことなら際限なくいくらでも喋れます。言われたことを言われた通りにやる発表係であるアナウンサーとしての適性はなかったと言えるでしょう。

■静電気のような抑えがたい感覚

 幼い頃にはそうした言語化の能力が未熟であったためか、圧のかかった静電気のようなものが常に体内にわだかまっており、よく尾てい骨から背骨にかけて抑えがたいムズムズした感覚が走りました。これはとても不快な感覚なので、そんな時は足の指をぎゅっと折って肛門に力を入れ、身震いして、上方に向かってムズムズを抜いていました。とくに何かに苛立ちを感じた時にそのような掻痒感が強く感じられることがあり、その時は足指や足首をぎゅっと曲げたりものを蹴ったりして、怒りのエネルギーと一緒に足から下に抜いていました。これは傍目には奇異な動作に見えたと思います。怒りを感じると足をくねくねとさせて、体をよじり、絞り出すような声を伴うのですから。

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