イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ──。発達障害の特性を生かし、新たなビジネスを生み出し活躍している人もいる。では、企業が発達障害のある人の能力を活用するためにはどんな視点が必要なのか。『発達障害という才能』の著者で、大人の発達障害を世に知らしめた昭和大学附属烏山病院長の岩波明氏に聞いた。2022年12月19日号の記事を紹介する。
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──会社の中で、発達障害のある人が特性を生かすためには、どのようなことが必要でしょう。
ADHD(注意欠如・多動性障害)の中には、「能力はあるけれど、ミスが多い」という人、ぼんやりし居眠りをしやすい人などがいます。睡眠リズムが不安定なため、過眠症を併発していることが多いからです。そういった特性を直属の上司が知っているかどうかで、働きやすさはずいぶん変わってくると思います。「サボっている」と思われることもなくなるでしょう。
■思考があちこちに飛ぶ
また、思考の筋道が論理的でなく空想にふける傾向が強いのも、ADHDの特徴です。これは「マインド・ワンダリング」と呼ばれます。思考があっちこっちへ行きやすいのです。当初ネガティブな意味で使われていた言葉でした。例えば会議で、Aというテーマで話しているのに、Bという単語に反応して、Bについて延々と話しだしたりします。マインド・ワンダリングしやすいと、すぐに話が横道に逸(そ)れてしまう。会議のメンバーとしては、これは困ります。
しかし最近では、そういった思考の働きが、実はクリエイティビティーと関係していることがわかってきました。発想の自由さ、ユニークさをうまく創造につなげられれば、組織にとってもプラスになるはずです。
こうした特性によって成果が出やすいのは、アートやカルチャー関連の分野です。沖田×華(ばっか)さんなどのADHD傾向を持つ漫画家の方とお話しさせていただきましたが、マインド・ワンダリングに伴う創造性が生かされていると感じました。デビューした漫画家さんであれば、寝食を忘れて作品に没頭し、他のことが何もできなくなってしまったとしても、担当編集者がサポートしてくれるものです。一般企業でもADHDタイプの人の周りに、フォローをしつつまとめていく人がいれば、能力を活用し活躍できる人は増えると思います。
もちろん発達障害の人がみな、特別な才能があるというわけではありません。才能がある人もいれば、ない人もいる。それは一般の人と同じです。