タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
* * *
普段はテレビを見ない人も、年末年始は見る機会が増えるかもしれませんね。何十年も続いている年末恒例の大型番組は、もはや年迎えの儀式のようなもの。変わらなさが安心につながるのでしょう。とはいえ昨年からNHKの紅白歌合戦では司会の組分けをやめました。出場歌手が男女で白と紅に分かれて戦うという性別対抗戦形式も、そろそろやめてもいいのでは。白と紅は元は源氏と平氏の旗の色で、性別を表すものではないのだし。私は以前から、くじ引きで決めればいいのになーと思っています。出場歌手名の書かれたボールをタコやインコに選んでもらうとか。
子どもの頃の記憶では、紅白をソファでずっと見ているのは父と子どもでした。母はキッチンに立ちっぱなしで、年越し蕎麦とおせち料理の準備をしていたのです。好きな歌手が出てきた時だけ、エプロンで手を拭きながら慌ててリビングに出てきて一緒に見る。今も「女たちは台所」という風習が残っている地域もあるでしょう。そうでなくてもちょうど食事の後片付けなどと重なる時間帯。となるとこれまで何十年もの間、男が白組、女が紅組という合戦をのんびり眺めて楽しんでいられたのは、年越し年迎えの料理から自由な人たちだったという仮説も成り立ちそうです。
あなたのお馴染みの年越しの風景はどうですか。私は長らく、夫婦で子どもたちを寝かせてから紅白の終盤→ゆく年くる年を見ながら乾杯→年の初めはさだまさしが定番だったのですが、8年前からは、年末は豪州の家族と過ごすようになりました。昨年と一昨年はコロナ禍で渡豪できず、一人でゆく年くる年とさだまさし。寂しかったなあ。今年は3年ぶりに、パースのリビングでシドニー湾のニューイヤー花火映像を見ながらの年越しとなりそうです。雪に埋もれた古刹の鐘の音が懐かしい、真夏の陽気な大晦日です。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2022年12月26日号