■じっくり読みたい古典、読み返すたびに新たな発見
古典は簡単に理解できないものが多く、「ファスト教養」とは対極にあります。ただ、すぐには共感できない分、自分の生きる時代を相対化し、わからないことに対して考えを深められると思います。私も一読者として楽しんでいますが、読み返すたび新たな発見があります。
『源氏物語』は最初、「光源氏ってクソだな」と思っても、深く読み込み、そのころの価値観や時代背景を知ると違う見え方があるかもしれません。『平家物語』は内容も圧倒的におもしろいし、原文を声に出して読むと音韻の美しさが伝わってくる名文です。現代語訳と原文を併せて読みたいですね。
『罪と罰』は今を生きる私たちにもわかる部分と理解できない部分のバランスが絶妙です。
『百年の孤独』は神話的な世界観のある作品。比較的新しいですが、「古典」と呼んで差し支えないでしょう。
『城』は本当に難しい。迷宮に放り出された感覚すらあります。ただ、「わからないものに対する好奇心」が弱っている現代だからこそ読んでみたい。読書会などでもいろいろな意見を聞ける、多義性に満ちた一冊です。
『方法序説』は近代的な思考法のもとになる作品。『夜と霧』は自分が本当に追い詰められたときにどう考えたらいいかを教えてくれる、私のバイブルです。
何か得たいと思ったとき、代わりに差し出している何かがあることに気づかせてくれる『自由からの逃走』、太古の人間の意識から出てきた物語である『ギリシア神話』は、ともに今の時代に読む意味があるでしょう。『歴史とは何か』は「歴史とは現代との相互作用の中で浮かんでくる」ことが書かれた本で、古典を読むことの意味がよくわかる一冊です。
(構成/編集部・川口 穣)
■ファスト教養とは対極
○現代語訳と原文を併せて読みたい
『新版 平家物語 全訳注(全4巻)』/杉本圭三郎/講談社学術文庫
○ナチスの強制収容所生還した経験がもと
『夜と霧 新版』/ヴィクトール・フランクル、池田香代子(訳)/みすず書房
『潤一郎訳 源氏物語(全5巻)』/紫式部、谷崎潤一郎(訳)/中公文庫
『罪と罰(1)(2)(3)』/ドストエフスキー、亀山郁夫(訳)/光文社古典新訳文庫
『百年の孤独』/ガブリエル・ガルシア=マルケス、鼓直(訳)/新潮社
『城』/フランツ・カフカ、池内紀(訳)/白水Uブックス
『方法序説』/デカルト、谷川多佳子(訳)/岩波文庫
『自由からの逃走 新版』/エーリッヒ・フロム、日高六郎(訳)/東京創元社
『ギリシア神話(上)(下)』/呉茂一/新潮文庫
『歴史とは何か』/E.H.カー、清水幾太郎(訳)/岩波新書
※AERA 2023年5月1-8日合併号