読書時間を確保できるゴールデンウィークこそ、なじみのなかったジャンルの作品を手に取るチャンスだ。識者が「ノーベル文学賞作家の本」「じっくり読みたい古典」を教えてくれた。AERA 2023年5月1-8日合併号の記事を紹介する。
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■ノーベル文学賞作家の本、読み継がれる作品に出合える
○早稲田大学教授・都甲幸治さん
ノーベル文学賞は基本的に北欧的な価値観に沿って選考され、言語的な壁もあります。とはいえ、緻密(ちみつ)に選考され、一時の流行で選ばれることはほとんどありません。同賞作家の本を手に取れば、読み継がれる作品に出合える確率は高いでしょう。
同賞作家の本はちょっと引いて見られてしまうのかあまり売れません。本当はおもしろい作品がいっぱいあります。
『ジャングル・ブック』は孤独の中を生き抜いた著者の半生が反映されています。古い児童書ですが、圧倒的におもしろい。
『死者の奢り』は大江健三郎の初期の作品。現実にはあり得ないことの描写がものすごくリアルです。大江作品が熱心に読まれていたのは30年以上前ですが、やっぱりすごい!
『異邦人』は夢を失い、仕事だけをこなし、罪を犯す主人公の姿が今の社会にも通じて考えさせられます。平易な文体も画期的でした。『日の名残り』はストーリーがおもしろく映像も浮かびやすい。読み手を巻き込む仕掛けがちりばめられています。
『密林の語り部』はペルーの歴史的・政治的な実情をリアルに描き、文化人類学的な要素も持っている名作。同じ南米の作家の『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』は幻想的な雰囲気があって引き込まれます。『青い眼がほしい』は黒人女性初のノーベル賞作家のデビュー作。「差別は自分の外側ではなく内面にある」ことを書ききっています。
『ゴドーを待ちながら』は70年前のコントの掛け合いを見ているよう。『老人と海』は人生哲学があり、アメリカのアクション映画のような骨太さもあり、たくさんの読みどころが。フォークナーの短編は20~30ページくらいの中にものすごいストーリー展開があります。
(構成/編集部・川口穣)
■本当はおもしろい
○古い児童書だが圧倒的におもしろい
『ジャングル・ブック』/ラドヤード・キプリング/岩波少年文庫
○あり得ないことの描写ものすごくリアル
『死者の奢り・飼育』/大江健三郎/新潮文庫
『異邦人』/アルベール・カミュ/新潮文庫
『日の名残り』/カズオ・イシグロ/ハヤカワepi文庫
『密林の語り部』/マリオ・バルガス=リョサ/岩波文庫
『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』/ガブリエル・ガルシア=マルケス/河出文庫
『青い眼がほしい』/トニ・モリスン/ハヤカワepi文庫
『ゴドーを待ちながら』/サミュエル・ベケット/白水Uブックス
『老人と海』/アーネスト・ヘミングウェイ/新潮文庫
『フォークナー短編集』/ウィリアム・フォークナー/新潮文庫