「凝った短編小説のようなお笑いは、目まぐるしい展開になりがちなんですが、錦鯉の笑いはテンポがゆるやか。余計な言葉を削(そ)いでいった結果、『でっかい太字で書かれた絵本』のような野太い面白さが生まれた。錦鯉は、『お笑い第7世代』とくくられる若い世代が見過ごしていたポイントを突いたともいえますね」

 昨年8月、ラジオ番組の収録に立ち会った。視聴者からのお便りコーナーで、長谷川は大ぶりのアクションをつけ、寄せられた一発ギャグを読み上げる。リスナーには見えないラジオなのに、両腕を振り上げ、エネルギーを全開にする。長谷川は根が真面目で、サービス精神が旺盛なのだ。

 一方の渡辺は、メジャーとサブカルの間を往復しながら、媒体や場に応じて軽妙に、ネタやトークに奥行きをつくる。「趣味がAV鑑賞」と公言し、テレビのバラエティー番組で、マツコ・デラックスから「下ネタで議席を失う市議会議員顔」と形容された。テレビに加え、ネット界からの支持も熱い。渡辺がバーチャルユーチューバー(VTuber)の「兎田ぺこら推し」なのは、オタク界隈(かいわい)では有名だ。ライブ配信で、ぺこらと共演したことも話題になった。また、キャバクラ嬢を演じるタレントとのトークで「ドM」なキャラを怪演したYouTubeの番組で、200万回以上の再生回数をたたき出した。

 売れっ子芸人の仲間入りをしても、渡辺はどこまでも謙虚だ。

「自分らの芸が世の中に刺さっている感覚はあまりないですね。今はとりあえず、M-1チャンピオンが(テレビ番組に)呼ばれているという認識。錦鯉が呼ばれているとは思っていない。これからが本当の勝負だと思います」 

 そんな渡辺に今後の野望を聞いた。

「ただただ面白くありたい。面白ければ仕事も来るだろうし。だから、何かやりたいこととか野望とかは、全くないんですよ」

「ただ面白くあること」に集中する。無我の境地そのものだ。そんな彼らの姿は、実に清々(すがすが)しい。

 錦鯉は、エイジズムとは無縁で「カワイイ」と言われ続ける、時代のアイコンだ。あらゆる世代と応答しながらピチピチ泳ぐ様を、まだまだ見ていたい。(文中敬称略)

(文・古川雅子)

AERA 2023年1月16日号

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