リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)
リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)

精神的にきつかったのは…

 精神的にきつかったのは、おじいちゃんおばあちゃんの「ここを辞めないで」「こんなうまい料理が食べられなくなったら自分たちはどうなるんだ」という声でした。

 俺もこの職場にめちゃくちゃ感謝していたし、できれば残りたいという思いはありましたが、仕事が順調に回るようになってからは、自分の夢を追いかけようと決意しました。

 料理人は挫折したけれど、料理の世界で俺は夢を叶えたい。自炊の楽しさを伝える伝道師として生きてみたいと思ったんです。ちょうど、ネット発の簡単なレシピが注目され始めた時期でもありました。

 そのなかでも俺が料理研究家として人気を得られたのは、おじいちゃんおばあちゃんに作った料理で良い反応をもらえたという成功があったからです。

 その反応をチェックして、ちょっとずつレシピを改良したりもしていた。たんに自分ひとりが食べて満足したお手軽レシピを出していた、という話ではないのです。

 それにテレビで聞かれれば、正統派の家庭料理のレシピも用意できたというのも大きかったでしょう。ジャンクな料理を作っているように見えて、フタを開けてみればまったく正統派な家庭料理もできる。しかも家庭料理の強みはどこにあって、人は何をうまいと感じるのかを知っている。

 お手軽簡単なネットでバズるレシピだけでなく、カレーやチャーハンのような正統派家庭料理を作れることが、確実に、料理研究家としてのキャリアの基礎になっていたのです。

(リュウジ・著『孤独の台所』では、「至高」などのレシピのネーミングの意図、SNSの「バズ」の戦略など、YouTube総再生数20億回超の料理研究家に至るまでの仕事論を語っている)

孤独の台所
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