石破茂首相との党首討論に臨む立憲民主党の野田代表

野田氏が不信任案提出を嫌がる理由

 自民との間で協力して政策を進めた方が政権交代するよりも良いと言えるようなテーマはもう見当たらない。

 そこで、野田代表が最後に頼るのがトランプ米大統領だ。6月15日からカナダで行われるG7サミットの際の日米首脳会談で、トランプ大統領に暴れてもらい、日本側が危機に追い込まれるという筋書きが野田代表にとってはもっとも望ましい。

 そうなれば、「これは国難だ。国難を乗り切るためには、衆議院を解散して政治空白を作る余裕はない。与野党が協力して対米交渉に臨むしかない」という宣言をする。国民も、「そんなに大変な状況なら」と納得して、不信任案を出さないことを評価してくれるというシナリオに野田代表はすがっているように見える。

 こうした展開に持っていくためには、日米交渉の状況の開示が必要だ。

 だからこそ、野田代表は、サミット前後に石破首相に野党党首との会談を要求し、石破首相がこれに応じると、「肯定的に評価したい」と述べた。

 あとは、帰国した石破首相から、交渉状況の説明を聞き、「国難だ」と言える材料をもらいたいのだろう。できれば、石破首相から、「国難だから与野党協力してこれに当たることを要請する」という言葉を得られれば最高だ。

 このコラムの配信直後にも、そうした展開になるかどうかがわかるだろう。

 ところで、どうして野田代表は不信任案の提出を嫌がるのだろうか。

 いくつかの理由がある。

 政権交代こそ政治改革だと偉そうに述べていた割には、野田代表は、政権交代に向けた準備を何もしていなかった。衆議院選挙の準備はできているなどと強気の姿勢を見せる立憲幹部もいるが、それは虚勢だ。22日投開票の東京都議会選挙があり、その直後に参議院選挙がある。それに加えて衆議院選挙となれば、とても準備が間に合わない。候補者を揃えるだけでも困難な状況だ。

 また、参議院選挙でさえ、野党間の選挙協力が進んでいないのに、さらに衆議院選挙で選挙協力を進めるのは難しいという事情もある。

 本来は、この日のために、野田代表や立憲幹部が、他の野党の首脳たちと頻繁に意思疎通を図り、衆議院選挙への準備をしておくべきだったが、実は、野田代表は何もしていなかったというのが党内の評価だ。その責任を自覚しているのではないか。

 さらに、コメ高騰対策で小泉進次郎農林水産相が登場し、日本中で小泉劇場一色となっている。国民の期待も高く、石破政権の支持率も下げ止まりから反転の兆しが見える。この勢いだと、総選挙になった時、下手をすれば自公過半数奪還という最悪の事態さえ懸念される。

 以上のような要因により、総選挙で政権交代できなければ、それだけでも野田代表の責任問題になる。ましてや、立憲が伸び悩めば、辞任は確定的だ。

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