校長が教員をサポートする「限界」を、ある地方自治体の教育委員会事務局の担当者は言う。

「休職中の教員をサポートする校長の『個人差』が非常に大きいのが現場の実態です。制度上は、都道府県の教育委員会が指導・助言しますが、実際の復職後の具体的な勤務調整や現場の受け入れ環境づくりは校長の役割とされています。復職者に対してどれだけ丁寧に関わるかは校長の人柄・価値観・経験に強く左右されます。熱心な校長は復職前から面談を重ね、受け入れる学年の教員の理解を促し、働きやすい環境を整えようとしますが、『復帰したいと言っているから復帰させる』以上のことをしない校長も少なからずいます。校長の異動により、復職支援の質が突然下がることもあります」

 正式に休職することになり、臨時講師が授業を担当することになっても、現場に課題は残る。

 例えば、休職者から「3月末で復帰するかもしれない」と言われている場合、4月以降も臨時教員を確保するべきか、判断しなければならない。

「ただ、実際には代替教員の確保そのものが困難であり、急な終了・延長ができないことも多いです。その結果、空白期間が生じ、担任不在状態が続いたり、複数の教員が分担して授業を回す『寄せ集め対応』が常態化するなど、子どもへの影響が避けられなくなるケースもあります」(教育委員会事務局の担当者) 

 前出の30代中学校教員も言う。

「教員には授業だけではなく、多様化する生徒への対応、保護者対応、行事の運営、文書作成といったさまざまな仕事があります。代わりに来た先生に、全ての仕事をしていただけるかというと、簡単な話ではありません。1年間、今いる先生たちで仕事を割り振っていくしかないです。仕事量は年度初めから1.1倍、1.2倍と徐々に増えていく実感を持っています。そうやって頑張れば頑張るほど、他の先生が過労で体調を崩す悪循環も起こります」

 どうすればいいのか。文科省の「教職員のメンタルヘルス対策検討会議」の委員の一人だった北里大学医学部講師の大石智さんは言う。

「文科省が示している復職支援のフローは全国一律の基準ではありませんが、復職の支援の主体が校長だと自治体の方々に植え付けられているのだとしたら、会議の報告書の見直しが必要だと思います」

 神奈川県相模原市の特別職を務め、教員のメンタルヘルス対策をおよそ20年間行ってきた大石さんは次のように訴える。

「相模原市では教育委員会に配置された保健師が2人に増え、教員との面談を積極的に行ったところ、予防的な介入が可能となり、精神疾患による教員の休職者は減りました。しかし、ここ5年は逆戻りしました。教員の業務がますます増え、教員の欠員が常態化して、精神疾患で休職する教員が増えるようになりました。そもそも学校という職場には教員によるセルフケアを尊重しづらい風土があるなかで、欠員により(校長などからの)ラインケアも難しくなっていることも原因の一つです。教員にかかる過重な負担を軽減しなければならないと考えます」

(AERA編集部 井上有紀子)

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