2回の第1打席に四球で出塁。1死後、坂崎一彦が左中間に長打性の当たりを放つが、長嶋はあたかも砂浜を走っているようなぎこちない動き。やっとの思いで三塁にたどり着いたが、前の走者を見ずに走ってきた坂崎がすぐ後ろまで迫っているのを見て、慌てて本塁に向かった。

 だが直後、外野からの送球を受けたサード・西岡清吉がバックホーム。足のハンデを考えると、ゆっくり投げてもアウトのタイミングだったが、ここで“奇跡の珍プレー”が起きる。

 本塁に向かって投げたはずの西岡の送球が、なんとマウンド付近を通って、一塁ベンチに飛び込んでしまったのだ。

 この間に長嶋、坂崎が相次いでホームイン。相手のエラーで命拾いした長嶋は、「踏ん張りが全然利かず、怖くて思い切ったプレーができない。一度はアウトと観念したけど助かった」と苦笑いだった。

 ケガによる欠場もあったが、同年の長嶋は打率3割3分4厘で自身初の首位打者に輝き、6月25日の天覧試合、阪神戦でのサヨナラ本塁打とともに、“ミスター伝説”を鮮やかに彩っている。

(文・久保田龍雄)

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