正午前、混雑の解消された吉田口・須走口本八合目からの登り。夜明け前は頂上まで行列ができるほど大混雑することもある(写真/佐々木亨提供)

 20年以上にわたって富士山を取材する山岳ライターの佐々木亨さんもこう言う。

「山頂での御来光は確かに魅力的ですが、混雑する真っ暗な登山道を登る行程はつらさが先に来てしまいます。ご来光は山頂以外でも楽しめますし、富士山の魅力は様々です。まずは、日本の最高峰に登ることを第一の目標にして、登山そのものを楽しむ行程を考えるといいかもしれません」

快適な富士登山プランは

 では、どんなプランで登ると、快適な富士山を楽しめるだろうか。最初に考えられるのが、シンプルな方法。朝登り始めて日帰りする行程だ。山頂での御来光を目指すピーク時間帯から外れるので週末でも混雑知らずの登山道を登ることができる。真っ暗ななか、渋滞にはまりながら歩くよりもずっと快適だ。日帰りなので多少荷物も減らすことができるだろう。

吉田口七合目の岩場(朝8時ごろ)。朝のうちは登山者も数えるほど(写真/佐々木亨提供)

 ただし、ネックになるのは体力。富士山登山にかかる標準的なコースタイムは山梨県側の吉田ルートで往復10時間15分、静岡県側の富士宮ルートで9時間35分ほどだ(いずれも最高地点の「剣ヶ峰」ではなく、吉田口・富士宮口の山頂まで)。山頂の大火口を一周する「お鉢巡り」をすれば、プラス1時間20分ほど必要になってくる。

 佐々木さんは言う。

「朝は清々しい空気のなかを快適に登ることができますが、体力レベルは高めですし、帰りは最終のシャトルバスの時間も気になってきます。普段から山を歩き慣れている人か、ハーフマラソンを完走できるくらいの体力がある人ならば一つの方法としてありでしょう」

 その場合でも夜通し車を運転して登り始めるのではなく、麓で仮眠するくらいの余裕があるといいという。また、夕方は雷雨になりやすい。天候を読んで早めに下山する判断力も必要になるだろう。

富士宮口七合目付近(朝9時ごろ)。朝のうちは天候も安定することが多く、爽快なロケーションを楽しみながら登れる(写真/佐々木亨提供)

どこで御来光を見るか

 そして、体力的に自信がない人や、やはり御来光も見てみたいという人におすすめなのが、山小屋で朝までしっかり休息を取り、山小屋の前で御来光を見てから山頂を目指す行程だ。富士山の4つの主要登山道はいずれも山の南東側と北東側を走るので、ある程度標高を上げれば基本的にはどの場所からでも日の出を望むことができる。

「『山頂で見る』ことにこだわらなければ、日の出の美しさに違いはありません。また、山頂は雲に隠れていても、山小屋は雲の下で見事な御来光が楽しめることもあります。もちろん逆もあるので運ですが、御来光を見る場所は山頂じゃなくてもいいと個人的には思っています」(佐々木さん)

 そして何より、体力的にも負担が少ない。深夜にほとんどの登山者が出発するので、それ以降の山小屋は静かで快適だ。熟睡は難しくても、御来光の直前まで暖かい場所でゆっくりと体を休めることができる。日帰りプランに比べて行程にも余裕があり、お鉢巡りまで十分に楽しめるだろう。私自身の経験でもこの行程が最もストレスが少なく、純粋に富士山を満喫できた。

次のページ 難しい山小屋の予約