そのひと振りに懸けるため、入念な準備をして日々の試合に臨んでいる。試合前の練習では「後半に出てくる(相手の)ピッチャーの軌道とかをイメージしながら『対戦したらこういうふうに打っていこう』みたいな感じで」ケージに入り、その投手の特徴や持ち球を真似てもらうようバッティングピッチャーにリクエストする。佐藤賢打撃投手兼スコアラーが証言する。
「リクエストされるんで、そんな感じで投げてます。(相手の)リリーバーとかですね、代打で出る選手なんで。(その投手の)タイミングだったりフォームだったり、ちょっと遊び感覚ですけどいろいろやってますね。(他球団の投手の)映像は見ますし、球種とかも言ってくるんで、一応ひと通り投げられるようにはしています」
17日の試合前も「曲がり球がいい」という宮城との対戦も想定して、カーブを多めにリクエストしたという。打席ではヒットエンドランがかかった2球目、そのカーブに空振りするも、スタートを切っていた一塁走者の伊藤琉偉が前述のとおり盗塁に成功。続く3球目のストレートをライト線に運んで伊藤をホームにかえすと、宮本は二塁ベース上で両手を叩いて右のコブシを突き上げた。
「打率は決して高くないですけど、出塁するんじゃないか、1本出すんじゃないかなという期待はすごく大きいです。自分の役割を理解しているので、今はもう代打1本になってますけど、そこの切り札ですね」
試合後、宮本をそう評したのは髙津臣吾監督。「打率は決して高くない」と言うように、この一打を含めても今シーズンの打率は.222ながら、代打に限れば打率.308、出塁率.526と「切り札」の称号が似合う数字になってきた。
実はこの日、ヒーローとしてお立ち台に上がったおかげで宮本は日々の“日課”を断念せざるをえなくなっていた。「ヒーローになった時だけはできないっス(苦笑)。そのままクラブハウスに帰らされるんで」と言うのは、いつもなら試合後のベンチ裏にこもって鏡の前で行う素振りのこと。