
「絶対に手放しちゃいけない選手です」
責任感が強い性格でも知られる。昨年11月23日に開催されたファンフェスタで選手会長として挨拶に立つと、「中日ドラゴンズは今年も最下位に終わり、3年連続の最下位となってしまいました。選手一同、連日たくさんファンの皆さんにたくさん応援してもらったにもかかわらず、このような成績になってしまったことを申し訳なく思っています。申し訳ありませんでした」とファンに向けて謝罪した。グラウンドを離れると明るいキャラクターでファンから絶大な人気を誇り、「球団の広告塔」としても貢献度が高い。
中日を取材するスポーツ紙記者は、複雑な表情を浮かべる。
「彼はすごく真面目なんです。打線の援護がなくても愚痴をこぼすことなく、黙々と投げ続ける。常に周りを気遣う人格者で、周りの選手にも慕われています。絶対に手放しちゃいけない選手です」
中日は今オフ、最大級の評価をして全力で慰留するとみられるが、柳がFA権を行使すれば複数球団の争奪戦となることは必至だ。巨人は先発陣の層が厚いとはいえず、23年オフに山崎福也(日本ハム)、昨オフは石川柊太(ロッテ)のFA補強に参戦し敗れている。同一リーグで何度も対戦してきた柳が加入すれば大きなプラスアルファになるだけに、参戦する可能性は高い。先発のコマ不足が深刻なヤクルトやDeNAも獲得に動く可能性がある。柳は宮崎県出身で子供の時はソフトバンクの春季キャンプを頻繁に見学していた。近年のソフトバンクは外部補強に積極的なので、柳がFA権の行使に踏み切った場合は動向が注目される。
柳は昨オフの契約更改で、3800万円減の推定年俸1億1000万円で単年契約を結んでいる。実績を考えれば、格安と言えるだろう。中日OBは心中を推し量る。
「柳が17年に入団以来、中日はリーグ優勝の経験がなく、Aクラスに進出したのも20年の1度だけと長い低迷期が続いています。野球人として優勝争いの緊張感を味わいたいという思いはあるでしょう。彼は家族で住んでいる名古屋を気に入っているし、中日への愛着が強いが、チーム愛だけでは決断できません。中日は再建にまだ時間がかかると思います。優勝できる球団でプレーするならFA移籍という選択肢は考えられます」
柳が今年、万全のコンディションを取り戻して白星を積み重ねることができるかどうか、そして中日が3年連続最下位から躍進できるかどうかが、FAの決断に大きな影響を及ぼすことになるだろう。中日は優勝を狙えるチームに変貌し、球界屈指の右腕を引き留めることができるのか。
(今川秀悟)