
勤務先によって異なるが、概して産休・育休中の収入はそれまでの3分の2程度に減ってしまう。一方で妻の社会保険料負担が免除され、出産育児一時金や出産手当金、育児休業給付金が支給されるものの、それでも出産前と比べれば手取りは2割程度も少なくなる。しかも、たとえ育休を終えて職場に復帰しても、子どもが幼いうちは時短勤務を余儀なくされるケースが少なくない。
タワマン低層階に引っ越し、余剰資金を投資へ
下手をすれば、タワマン高層階というコミュニティーの暮らしぶりに自分たちを合わせたままでいる限り、産休・育休中にローンの返済も苦しくなる恐れもあるのだ。では、こうした状況を打開するにはどうすればいいのか?
「昔の親がよく口にしていたように、『他所は他所、ウチはウチ』と割り切って、自分たちの家計の状況に合った暮らしぶりに戻すしか術はありません。それができないなら、環境(住む場所)を変えざるをえないでしょう」(藤川さん)
幸い、タワマンは中古住宅市場でも人気が過熱しており、特に高層階なら手放す決断をしても有利に売却できる可能性が高い。ただ、次もタワマンを希望するなら、低層階を選ぶのが無難だと藤川さんは忠告する。
「低層階のほうが地震などの自然災害が発生した際の避難に苦労するリスクも低いと言えますし、販売価格も高層階と比べて安くなるので、そちらのコミュニティーのほうが無理をせず付き合えるのではないでしょうか? 私が相談を受けたお客様の一人も、家業の承継を機に高級住宅地から郊外に引っ越し、移住して本当によかったとおっしゃっていました。以前は近所の手前もあって外車に乗り、特に好きでもないブランド品を身にまとっていたそうです。逆に郊外ではそのように派手な暮らしぶりをしていると後ろ指をさされかねず、妙な見栄を張らずに気楽に過ごせると笑っていました」
プライバシーの問題もあり、今回は河島さん夫婦が近所付き合いをしている方々のバックグラウンド(職業や年収・資産の状況)までは調査を行っていない。したがって、あくまで推測にすぎないのだが、もしも彼らが河島さん夫婦のような悩みとは無縁で当たり前のように優雅な暮らしを送っていたとしたら、それは本当の富裕層だからだろう。
厚生労働省の「2023年国民生活基礎調査の概況」によると、世帯年収が1千万円を超えているのは11%、1500万円以上は3%ほどだ。一方、野村総合研究所が今年2月に公表した調査によると、23年時点で純金融資産(金融資産の合計から負債を引いた額)を1億円以上保有する「富裕層」と、5億円以上保有する「超富裕層」は計165万世帯いる。
世帯年収が1500万円を超えて一般世帯よりかなり高くても、豊富な資産を持っているかどうかは別の話だ。ここでは世帯年収は高いが、資産は多くたまっていない世帯を「プチ富裕層」と呼ぶ。
あくまで河島さん夫婦は、「プチ富裕層」の域を脱していない。推測通りに河島さん夫婦が仲間入りしてしまったコミュニティーが富裕層によって構成されているなら、今の場所で暮らすのは時期尚早だったと言えそうだ。 富裕層向けに資産運用コンサルティングサービスを提供しているウェルス・パートナー代表取締役の世古口俊介さんは喝破する。
「結局、プチ富裕層にとどまっている人たちはフローリッチ(高収入)ではあるものの、キャッシュリッチ(資産家)ではないということです。資産を築きたいなら、清貧な生活を心掛けて手元にお金が残るようにしたうえで、①ノーリスクの預貯金にこつこつと蓄えていくか、②リスクを取ってNISAを通じて株に投資するかの二者択一ですね」
また、前出の藤川さんもこう語る。
「際立って高収入ではなくとも、40代にして億の財を築き上げている人は実在します。マイホームも購入し、子どもの教育費にもきちんとお金をかけたうえで、蓄財に成功しているのです。そういった人たちに概ね共通しているのは、普段は質素な生活を心掛けながらもリスクを取って資産を運用し、その成果として億超えを達成していることです」
肝心なのは、収入の多い少ないにかかわらず、つねに家計の収支をプラスにしたうえで、残った資金を着実に運用に回し、せっせと資産を増やしてくことだ。