
「長く住み続ける場所だから、マイホームだけは金銭的にも妥協せずに本当に欲しいものを買おうと妻とも話し合っていました。そして、マイホーム以外にはお金をかけるつもりはまったくなかったのですが……」
ため息交じりにこう語るのは、都内のIT企業で役職に就く河島俊介さん(仮名・36歳)だ。某外資系企業に勤める妻の恵梨香さん(仮名・34歳)の給与と合わせると年収が約3千万円に達しており、いわゆる典型的なパワーカップルだ。
さすがに都心の超高額物件には手が届かないが、環状7号線の外側で環状8号線の内側にあるエリアで約1億5千万円の新築マンションを見つけ出し、モデルルームを見学した二人はほぼ即決で契約を結んだ。二人がともに憧れていたタワーマンション(タワマン)の高層階にある物件である。
欲しくもない外車を購入 ふだんの買い物も高級スーパー
ほぼ全額の貯蓄を取り崩して2千万円の頭金を投じ、残りの資金は夫婦それぞれが融資を受ける形式のペアローンで調達した。月々の返済額は合計約36万円に達するが、二人の収入とそれまでの月々の出費を踏まえれば、家計が赤字に陥るリスクは極めて低いと考えられた。
ところが、新居に引っ越してみると、待ち受けていたのは想定外の家計悪化だった。以前よりもはるかに出費が増え、ローンの返済に窮するまでには至っていないものの、貯蓄に回すお金がまったく残らないのだ。
もっぱら至近距離にある高級スーパーを利用することになったことで食費をはじめとする生活費の負担が驚くほど増加しただけでなく、引っ越し前はほとんど発生していなかった交際費(ご近所付き合いのランチ代やお茶代)も軽視できない出費となった。
より深刻なのは、本人たちが望んで贅沢な暮らしを始めたわけではないことだ。
「親しくなった同じマンションの居住者たちと日帰りでドライブ旅行に出かけたのですが、国産車に乗っていたのは私たち夫婦だけで、他の方々はいずれも高級外車。肩身が狭い思いをしたので、我が家も外車に買い替えました」(俊介さん)
妻の恵梨香さんも次のように述べる。
「高級スーパーにしても、好き好んで利用しているわけではありません。私が庶民的な店で買い物をしている姿を目撃されたら、『河島さんのお宅、どうしちゃったのかしら?』と陰口を叩かれかねない雰囲気なんです。私自身、マンションの奥様方がその場に居合わせていない人に関するよからぬ噂話を耳にしたことがありますから」
さらに、恵梨香さんはうんざりとした表情で嘆く。