立ち寝、実際にやってみると…(撮影/國府田英之)

眠気との孤独な闘い

 広葉樹合板の山口裕也社長も、立って眠った経験は一度もない。というより、想像すらしたことがなかった。

 ただ、山口さん自身、日中に車で外回りをしていた際、特に空いている高速道路などで、眠気に襲われたことは少なくなかった。

「次のインターチェンジまで頑張ろうとした自分を後悔したことが何度あったか。窓を全開にして、ひとりで大声をあげたりして・・・・・・」

 運転中に眠気に襲われれば、当然、事故の危険性は高まる。労働者は疲れに負けてはいけない、耐えることが是だとされる風潮に疑問を抱いてもいた。

 経済協力開発機構(OECD)の21年の調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分。加盟30カ国で最下位だ。全体の平均睡眠時間と、1時間もの差があることもわかったが、そうした調査や、「睡眠負債」のニュースなどにも関心があった。

「立って寝る製品は、世界初かもしれない。製品化できたら面白い」

「N2」のノンレム睡眠を維持

 開発段階で、北海道大と台湾の国立成功大と、立ち寝でどのような睡眠が得られるかの共同研究を行ったところ、被験者は4段階あるノンレム睡眠のうち、軽い寝息を立てる程度の「N2」を維持できることが分かった。

 米国のカリフォルニア大が、「N2」の睡眠は脳のキャッシュをクリアし、ものを覚えるなどの脳のワーキングメモリーが強化されるとの研究結果を発表しているが、

「N3の深い睡眠の状態になると、スッキリ起きられずに仕事の能率が下がってしまいます。重力と垂直方向で寝る事により『深い睡眠に入らずスッキリ起きられる』メリットがあることがわかりました」(山口さん)

 販売開始から一年が過ぎた。

 当初は、企業が日中の仮眠スペースとしてオフィスに導入することを想定していた。例えば9~17時の会社なら11~15時の間に20分間、仮眠してもらうイメージだ。

 期待通り、そうした企業からの引き合いが多かった一方で、意外な反響もあった。

 目立ったのが、「24時間稼働している職場」だ。例えば医療機関や介護施設、鉄道事業者やコールセンターなど。緊急対応に追われる職場だけあって、隙間時間に仮眠したいというニーズがあるのかもしれない。

 本州の高速道路管理会社からの問い合わせもあった。

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