最初こそこんな体たらくだったが、一か月経つとだいぶ慣れてきて、失敗も減ってきた。大学構内のコンビニだから友人や知り合いがお客さんとして来店するのは実によくあることで、そのたび少し恥ずかしい思いもするが、話しかけられても落ち着いて対応することができるようになった。
学内のコンビニは二十四時間営業ではなく、夜十時閉店なので、ラストまでシフトが入っている人は閉店作業をやらなければならない。床を掃除したり、ごみを捨てたり、フライヤーや蒸し器を洗ったり、コーヒーマシンの手入れをしたり、レジを点検したりなど、やることが多くて大変だった。
しかしラストならではの楽しみもある。食品の廃棄作業だ。賞味期限が近くなったサンドイッチや弁当、デザート、そして売れ残った中華まんや揚げ物はすべて廃棄の対象となる。廃棄になった食品は私たち店員のまかないになり、それがとても助かった。なにせ歴史的円高の真っ最中でお金がなく、少しでも食費を浮かせようと、私は毎回廃棄食品をなるべくたくさん持ち帰るようにし、寮の共用冷蔵庫に保存した。二、三日の間はそればかり食べた。
大袈裟(おおげさ)ではなく、バイト先から持ち帰った廃棄食品は、当時の私にとってはちょっとしたごちそうだった。普段の食事は自炊していたが、食材費と時間を節約するために、およそ料理と名乗るのも口幅ったい簡易なものばかり作っていた。パスタを茹ゆでてレトルトのソースをかけたり、肉と野菜を適当に炒いためたりして、一日二食か三食やり過ごした。コンビニで売っているような弁当や揚げ物やデザートはもったいなくてとても買えない。だからラストまでシフトが入っていて、廃棄食品を持ち帰れる日が来ると、いつも贅沢(ぜいたく)な気分になった。消費期限を少し過ぎたくらいでどうってことなく、冷蔵庫に二、三日置いたフライドチキンを加熱して食べるのも日常茶飯事だった。
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