発達障害の特性によって働きづらさを抱えやすい人たちがいる。一方でその特性は強みにもなる。当事者や、周囲が感じる、見えない「壁」。その壁を取り払うのは社会や企業の側だ。AERA 2025年1月20日号より。
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同僚が話している。その声は聞こえている。でも、何を言っているのか理解できない……。
YouTubeで発達障害に関する啓発活動をしているたきぽよさん(37)にはそんなときがある。それは、工場や居酒屋といった騒がしい環境で。あるいは同僚が急いでいて早口のとき。しっかり聞いていても、途中から別のことが気になって大事なことを聞き漏らすこともあった。
「あなたは優しいから向いている」。大学のキャリア担当職員にそう勧められて、新卒で介護の会社に就職した。だが現実は違った。てきぱき動けず、やるべきことにも気づけない。仕事がたまり、そのしわ寄せは同僚に。
「最初は優しかった同僚が、だんだんと語気が強くなり、休憩室では自分の悪口で花が咲いて、居場所がなくなっていきました」
耐えきれず1年で退職した。
周りから冷たくされるのは、「学生時代からデフォルトだった」という。精神的につらくなり、病院を受診すると、自閉スペクトラム症(ASD)と境界知能(IQ76)だとわかった。
いま思えば、介護の現場では、利用者の介助などの仕事を素早くこなさなければならない。
「動きが遅くて、やるべきことにも気づけなくて、とろかったんです。仕事がどんどん溜まっていき、同僚にしわ寄せがいきました」
また、利用者のオムツ交換では、嫌な顔を隠せなかった。それはASDの特性の一つである嗅覚過敏だったからだ。
その後、障害者雇用で特例子会社に就職した。データ入力や就労継続支援B型事業所利用者の支援を担当している。データ入力は数字が好きな特性を生かせるし、利用者からの相談など不得意なことは他の人が行い、たきぽよさんは利用者が作った製品の検品作業や納品などを行う。
「ここでは休憩を忘れるくらい仕事に没頭できます。それに、初めて職場で褒められました。今、幸せです」