娘に「私、妊娠しちゃった」と言われたら 超人気ドラマに学ぶ
「私、デキちゃったの」
ある日突然、未婚の娘から妊娠を宣言されて周章狼狽する父親を描いて人気を博しているテレビドラマがある。田村正和が父親を演じるTBS系「オヤジぃ。」(日曜夜九時)。
ところで、もし、いとしい娘から妊娠を告げられたら、あなたはどうしますか?
田村正和演じる主人公・神崎完一は、「腕はいいが、はやらない開業医」。口うるさくて横暴で、何にでも干渉したがる、最近では希少価値となった典型的な頑固オヤジだ。子供たちが問題を起こすたびに、
「おまえら、何やっているんだ」と怒鳴り散らす。
長女の小百合(水野美紀)は小学校教師。勉強もでき、妹や弟の面倒見もいい。そんな優等生の小百合が、妻ある医師の子を宿す。
「父親の名は言えません。ひとりで産んで育てます」
想像もしていなかった娘の反乱。決然と家を出ていく娘に、神崎は声も出ない。それからは、「イイ」とも「ダメ」とも言えず、娘の様子を遠くから見守るだけだ。
オヤジたちの思いを代弁してくれる神崎への共感からか、視聴率は回を追うごとに急上昇。ビデオリサーチの関東地区調査によると、十一月下旬には二五%を突破し、松嶋菜々子主演のフジテレビ系「やまとなでしこ」を抑えて、ドラマ部門で堂々の一位となった(十二月初めは第二位)。
八木康夫プロデューサーは言う。「これまでドラマをあまり見ることのなかった三十代後半より上の中年男性が多く見ているようです。今、父親の存在が希薄になっています。神崎は、思ったことはすぐ何でも言ってしまう、うるさい存在。子供たちは反発するけど、それが親子のコミュニケーションの始まりになっている。『みんなでもっとモノを言って家族の絆を取り戻そう』。そんなメッセージが、お茶の間に受け入れられているのではないでしょうか」
とはいえ、娘の突然の反乱に、小百合世代の娘を持つフツーのお父さんたちも、意見はさまざまだ。
団体職員のEさん(49)には、二十三歳になる大学生の一人娘がいる。
「娘が既婚者の子供を産むと言ったら、反対しますね。もっとも、そうなる前に家庭に会話があれば、それぞれの考え方をわかり合えると信じていますが」
会社役員のKさん(64)は、来年二月、長女に初めての子供が生まれる。 「うちはそうじゃなかったけど、デキちゃったら、相手に不満があっても、いまどき反対できないよ。反対したって、家をさっさと出ていっちゃうからね。だけど、結婚できないとなりゃ、話は別だよ。どうしてもっていうなら、認知させて時期を待つ手もあるけど」
一方、最近、アメリカの大学の通信教育で博士号を取ったという大学教授のFさん(54)は、
「胎児も人間だから」
と、あくまでも産むことを優先させるという。
「たとえ片親だとしても、親が子を父性母性のバランスを保って教育することは可能だ」
というのが持論だ。さすが大学教授というべきか。
最近も、キムタクと工藤静香が話題になったばかりだが、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、婚前妊娠結婚(デキちゃった婚)の割合は、九七年の調査で結婚全体の二〇%を超えている。若者の間では、デキちゃった婚は、タブーでも何でもなくなっている。父親たちは、それを追認するしかないのだろうか。
ドラマの神崎と同じ体験をしたオヤジもいる。
「妊娠しちゃった。彼と結婚したい」
会社員のAさん(55)が、二十五歳になる長女から妊娠を告げられたのは、三年前の春だった。
「その前から、兆しはあったんですよ。突然、一人暮らしをしたいと言いだしたり、北海道へスキー旅行に何回か行ったりしていましたから」
だれと旅行に行くのか気にはなったが、「今どきの女の子だから」と、詮索したりはしなかった。
「一年くらい前に、『つきあってる人がいるから』と言われ、彼と一緒に食事をしました。会ったのは、後にも先にもそれだけでした」
■認めるか対立か問われる父の器
ただ、娘が妊娠したと聞いてもショックはなかったと、Aさんは言う。
「そんなことより、これで娘もやっと結婚する。親としての肩の荷が半分下りたなって、うれしかったことしか覚えていません」
その年の五月に二人は結婚式を挙げ、九月には孫娘が生まれた。
「会社の同僚に『うちはデキちゃった婚なんだ』って言ったら、『いや~、うちもなんだ』って盛り上がっちゃって」
今では休日に、近所に住む孫娘と散歩するのが楽しみだという。
次は、オヤジと対立してしまったケースである。M子さん(26)は、現在妊娠三カ月だが、
「父親に、妊娠したことと、結婚したいと思っていることを報告したら、それ以来、まったく口をきいてもらえなくなって……」
父親(54)の不満の理由は、どうも相手にあるらしい。M子さんの彼は、フリーライター。定収入はない。そのうえバツイチ。長女のM子さんを溺愛し、期待していた父親にとって、どこの馬の骨とも知れない男に掌中の珠を奪われたショックは大きかったようだ。
「そんなやつ、ダメだ。選択肢はいくらでもある」
と、暗に堕胎も勧められた。
「なんか、私が彼にだまされているって勘違いしているみたいです。そうじゃないって、いくら説明してもわかってくれない」
妊娠は、二人にとっても予想外の出来事だった。
「でも、それがわかったとき、とてもうれしかったですね。キムタクじゃないけど、“新しい生命”が授かったって気持ちでした」
もちろんM子さんは、父親の意見に従うつもりはない。着々と結婚の準備を進めている。プライドの高い父親とは、わかり合えるようになるまで時間がかかると思っている。
「私たち、産むつもりがなかったら、親に言ったりしませんよ。言うっていうのは、産むということ。会社に『デキちゃいました』と言うのはちょっと恥ずかしかったけど、それがきっかけで彼との結婚を考えるようになりました」
■家族を守るため闘うのがオヤジ
結婚が女性にとって社会的、経済的、精神的支えだったひと昔前とは違い、今は、独身女性にもそれなりの経済力がある。妊娠したからといって、すぐさま仕事を失うこともない。「産む、産まない」の選択権は、女性がしっかりと握っているのだ。
もっとも、日本における婚外子の誕生は、厚生省の人口動態統計では一%程度にとどまっている。恋人同士の同棲やセックスには寛容になってはいるが、「一人で産み育てる」には、まだまだ覚悟が必要というのが現状だ。
「妻とこのドラマを見ながら、うちの娘が小百合みたいになったらどうするって、話し合ったことがありますよ」と言うのは、公務員のGさん(51)。
スポーツマンのGさんは、日曜は試合や指導で忙しいが、夜はこのドラマを楽しみにしている。
「うちの子はまだ十七歳だから、これからこんなことが起こらないように願っています。親としては、そのほうが楽だから。でも、もしそうなったら、本人次第。親はしっかり応援するだけです。今はそういう時代ですよ」
ドラマの終盤、小百合に事件が起こる。授業参観を、保護者からボイコットされたのだ。小学校に駆けつけた神崎は怒鳴る。
「娘は、親の私が反対しても子供を産むという。それのどこが間違っていますか」
それは父から娘へ送った、熱いエールであった。
普段は好き勝手言ったり、したりしていても、いざというときに先頭に立って家族のために闘ってくれる人。それがオヤジなのかもしれない。