ソフトバンクは2022年11月から4軍制を始動した

「大学で力をつけたほうがいい選手もいる」

 一口に育成契約と言っても、入団する球団によって事情が変わってくる。育成で指名する選手が少なく、FA補強に積極的でない球団では支配下に昇格するチャンスが広がる。一方で、育成選手を大量に指名する球団では、育成から支配下登録を勝ち取るのはかなりの“狭き門”だ。

 とくに球界で唯一、4軍制を敷くソフトバンクの生存競争は厳しい。ソフトバンクは育成ドラフトで2021年に14人、22年14人、23年8人を指名。今年は高校生8人を含む13人を指名した。一方で、支配下と育成を含め、このオフに計23人が戦力外通告を受けている。

 ソフトバンクに育成指名で入った高卒の選手からは千賀滉大(メッツ)、甲斐拓也、牧原大成らが球界を代表する選手に飛躍しているが、サクセスストーリーを歩む選手はほんの一握りだ。このオフにソフトバンクから戦力外通告を受けた三浦瑞樹は、育成での再契約を打診されたが、「他球団のほうがチャンスがある」と断り、中日に育成契約で入団した。

 プロに教え子を送りだすアマチュア指導者は、育成ドラフトの大量指名に複雑な思いがある。東海地区の高校のコーチは「大学に進んだほうがいい選手もいる」と苦言を呈す。

「大学に進めば4年後にドラフト上位で指名される才能を持った選手が、育成で2、3年プレーして支配下昇格できず、戦力外通告を受けるケースを何人も見てきました。育成枠で大量指名ができる現行のドラフト制度だと、優秀な人材が消えてしまう代償のほうが大きいように感じます。まだ若いから芽が出なくても、独立リーグでやり直しがきくと思う人がいるかもしれませんが、プロで1軍の舞台に立てず自信を失ってしまい、野球を辞める選手が多いのが実情です。プロの施設に比べたら環境面で見劣りするかもしれませんが、大学の4年間で力をつけたほうが将来を考えても安心できます。『育成でもいいので高卒ですぐにプロの世界に挑戦したい』と話す高校生の思いも尊重したいので、難しい問題ですけどね」

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球界OBは「日本にこのやり方が合うかは疑問」