広島県の山間にある米田一彦さんの自宅にたびたびやってきたクマ。あらかじめ用意しておいたカメラで米田さんの妻が撮影=本人提供

「山中のクマ」と「アーバンベア」は別モノ

 30年ほど前から中山間地の人口減少と高齢化が進み、耕作放棄地が増えた。それをすみかとするクマと住民との距離が近くなった。作物などを求め人里を訪れるクマはかつては「集落依存型のクマ」と呼ばれたが、近年増加している市街地に出没するクマは「アーバンベア」と呼ばれる。

 環境省によると、昨年9~12月に全国で人身被害が発生した場所は、約3~6割が人家の周辺だった。特に秋田県では人の生活圏での人身被害が多かった。

 米田さんは、自然の山の中に生息するクマと、市街地に現れたクマは「まったく別モノ」だと言う。そのため、遭遇した際の対応も異なる。

「本来、クマは森林の動物ですから、森の中にいるときは実に穏やかな顔をしているんですよ」と言い、目を細めた。

 見せてくれた写真には、夏の小川のせせらぎのなかで仰向けになり、気持ちよさそうに昼寝をするクマの姿や、森の中に座ってのんびりと毛づくろいする様子が写っており、確かになんともほほえましい。

 クマは本来、臆病な動物で、人間の存在を察知すると、そっと逃げていくという。

 これまで米田さんは、そんなクマに数千回も出合ってきた。多くの場合は無視されるが、約2割のクマは「こちらに気がつかないで近寄ってきた」。そんなときは、「ほいっ」と、短く声をかけて気づかせると、反転して逃げたという。

林間のつたを渡っていて足を踏み外したクマ。落下を恐れて戻ろうと20分ほど苦闘した=米田一彦さん提供

「後ずさり」するより動かないこと

 現行の環境省の対応マニュアルには、「クマと遭遇した際、背中を見せて逃げると襲われるので、ゆっくりと後ずさりして距離をとること」という内容がある。そして、それは基本的に正しいと米田さんは言う。

「走って逃げるのが一番ダメです。けれども、山の中で後ずさりすると、たいてい足をとられて転倒し、襲われてしまう。動かずに、静かに立ち尽くすほうがいい」(米田さん)

 通常、人と出合ったクマが強く反応するのは、母子クマや採食中、繁殖期、至近距離で突発的に遭遇してしまったときなどだ。米田さんは、殺人的な攻撃を受けたことも9回ある。「捕獲の際、麻酔で失敗したとか、越冬穴に入ったら襲ってきたとか」。襲われた場合は、催涙スプレーの一種「クマ撃退スプレー」を使ってきた。

「これまで何回もクマスプレーに助けられました。メーカーによると、北米での使用例では98%の撃退実績があるそうです」(以下、同)

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アーバンベアは出会い頭に襲う