森の中で座って20分も毛づくろいをしていたクマ。その動きは黒い毛皮を着た人のようだ=米田一彦さん提供

 スプレーがなければ、うつぶせになり、「死んだふり」で防御姿勢をとり、最悪の事態を避けるべきだという。

「昭和時代は、ナタなどを使ってクマと戦う人が少なくありませんでした。でも、最近は山に入ってクマに遭遇する人の多くは高齢者ですから、戦うのは現実的ではありません」

 山菜やきのこ採りで入山する場合は2人以上で行動し、襲われた際はスマホで救助を求めることが重要だという。

「高速通信、高速搬送、高度医療の『3高』に頼れば、命が助かる可能性が高まります」

 ただし、この方法が有用なのは山中のクマに限った話だ。

街でクマと出合ったら

 昨今増えている「アーバンベア」の場合、行動パターンが全く異なる。アーバンベアは、隠れる場所を探しながら速足で移動し、公園や神社仏閣、屋敷森、河川敷など、木々のあるところを目指す。移動中に人と遭遇すると、排除しようと攻撃する。

 山中のクマとは違い、アーバンベアは出合った人を襲う可能性が高い。そのため、複数の被害が出ることが珍しくない。

 ところが、環境省のマニュアルには、アーバンベアへの対処方法が書かれていない。

「瞬時に車内や建物内に逃げ込めるのならいいですが、そうでない場合に後ずさりして逃げようとすると、クマに発見される可能性が高い。なので身近な物陰に隠れることです」

 電信柱や木立のような、全身は隠れないものでも効果があるという。

身を隠すことが肝要

「クマは実は目が悪い。頭と胴、手足があること、つまり五体あることで、相手が人間だと認識します。じっとしていることが肝要で、手足をばたつかせては意味がありません」

 襲ってきたら、地面に伏せ、頭を両手で守ることは、山中でクマに遭遇した場合と同じだ。

 対策を優先順位をつけて説明すると、街中で速足で移動するクマを見つけたら、①屋内に逃げ込む②物陰に隠れる➂何も遮蔽物がなければ地面にうつぶせになって身を守る、となる。

石川県加賀市では2020年10月、駅前の商業施設のバックヤードに体長130センチのツキノワグマが侵入。捜索に12時間以上かかった
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