ハン・ガンさん(Han Kang)/1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。著書に『菜食主義者』『少年が来る』『すべての、白いものたちの』他多数
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 ノーベル文学賞を、韓国の女性作家、ハン・ガンさんが受賞した。近年、多和田葉子さんや川上未映子さんなど、日本の女性作家も海外での評価が高い。AERA 2024年11月11日号より。

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 2024年のノーベル文学賞を韓国の作家、ハン・ガンさんが受賞したことが話題だ。53歳のハン・ガンさんはこれまでの受賞者と比較して、圧倒的に若い。韓国人として、そしてアジア人の女性として初の受賞でもあった。

 そもそもノーベル文学賞は1901年のスタート以来、大半が欧州か英語圏の作家、詩人で占められ、その偏重が問われてきた。さらに女性の受賞者は昨年までの受賞者120人中わずか17人であり、男性優位の傾向も問題視されていた。2017年にはノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーの関係者による複数の女性への性的暴行疑惑が発覚。18年にはノーベル文学賞の発表をせず、翌年に2年分をまとめて発表するという事態になった。ノーベル文学賞のありかたが問われる中での今回の受賞だったのだ。

変わるノーベル文学賞

 ハン・ガンさんの受賞には日本の文学ファンも喜びと驚きにわいた。日本では数年来、ハン・ガンさんの作品はもちろんさまざまな韓国文学が翻訳され、多くのベストセラーも生まれている。その背景を書評家の倉本さおりさんに聞いてみた。

「2007年に韓国文学や朝鮮半島関連の書籍を扱う出版社『クオン』ができて、積極的に活動してきました。カフェも作ってイベントを開催するなど、韓国文学が広く読まれるきっかけを作ったと思います」

 クオンは2011年から「新しい韓国の文学」シリーズをスタート。最初の作品として選ばれたのが、ハン・ガン『菜食主義者』(きむ ふな訳)だった。アジア語圏の作品として初めて、2016年にイギリスで最も権威があるマン・ブッカー国際賞を受賞した作品だ(19年に国際ブッカー賞に変更)。

「2015年に、パク・ミンギュ『カステラ』(ヒョン・ジェフン、斎藤真理子訳)が日本翻訳大賞を受賞したことも大きかったでしょう。戦後、韓国文学は在日コリアンの方々が翻訳を担ってきた経緯もあり、いわゆる大文字の歴史を扱う重厚なものが多く、読者層がほぼ固定化されていたんですが、ポップな『カステラ』が既存のイメージを覆した。『現代韓国文学って、こんなに多彩なんだ』と、多くの本好きの人たちが気づいたんだと思います」

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韓国文学を読んでいると書き手の成熟度が違うなと感じる