鉄道会社の駅員らへのカスハラや暴力行為が深刻化している。背景には、コロナ禍による利用客の激減があるという。JR各社は方針を打ち出した。乗客にも求められることは何か。AERA 2024年11月4日号より。
* * *
「カスハラ対策は避けては通れない課題」
こう語るのは、JR7社とグループ会社の労働組合で組織する「JR連合」企画局長の宮野勇馬さん。
宮野さんによれば、駅員や乗務員・工務系社員に対するカスハラは以前からあり、労働組合としても長年、JR各社に対策を取るよう申し入れをしてきた。しかし、新型コロナ禍以降、より深刻になったという。
「コロナ禍による利用客の激減で各社経営が悪化し、労働力人口の減少や機械化なども背景に、みどりの窓口の数を削減する施策を旅客各社が実施しました。コロナ禍が落ち着いて人流が戻ると、外国人観光客が増えたことも相まって窓口などの待ち時間が長くなり、ストレスからカスハラを招きやすい状況が生まれました」
JR連合は21年から、カスハラ対策を「重点政策」の一つに掲げ、取り組みを進めてきた。小売りや外食などの労働組合でつくる産業別労働組合の「UAゼンセン」など他産別との情報交換を進めると同時に、陸・海・空の労働組合が集う交運労協の中核を担う組織として、実態調査やガイドラインの策定にも関わった。
ここまでJR連合がカスハラ対策に力を入れる背景にあるのが、強い危機感だ。宮野さんは言う。
「カスハラを放置すれば従業員の心身の健康を害したり、それらを理由に会社を去ることにもなりかねません。また、カスハラの対策を行わない企業は、企業イメージが悪くなり、将来にわたって優秀な人材が入ってこなくなることにもなります」
とは言え、カスハラかどうかの判断は難しい。鉄道営業法は悪質な利用客に対する乗車拒否などを明確に定めていない。列車の遅延などに対するクレームとの線引きが難しく、鉄道会社は「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引きに苦慮してきた。