――このプロジェクトで生み出されたものが全国に派生していけば、さらに豊かな音楽文化につながりますよね。個人的には「こういうプロジェクトは音楽業界全体でやるべきだろう」という思いもあって。メジャーレーベルや大手プロダクションがもっと協力すればいいのに、とか。

 そのことで言えば、彼らは彼らなりの理屈で才能のある人たちにお金を出してますから。それはそれでいいと思うんだけど、一方で「音楽はわかりやすく才能がある人たちだけのものではない」とも思っていて。商売にならなくても音楽をやっていいし、実際、商業ベースに乗らなくても、すごく美しい音楽はそこらじゅうにあるんですよ。そういう作品をつくっている人、つくろうとしている人にも、素敵な環境で録音できる機会があったほうがいいなと。

――別のお仕事をしながら音楽を続けるミュージシャンも増えてますからね。

 今は多分、音楽だけで食べていくことを前提にこの業界に入ってくる人は、ほとんどいない気がするんですよ。芥川賞を取っても会社を辞めない小説家がいるように、働きながら音楽をやるのが普通の時代だし、そうやってリスクを回避している。僕らの世代はまだ「音楽だけでずっとメシを食うんだ」という思いで音楽を続けていた人が多かったんです。僕自身もあと2年で50歳になりますが、「この先、音楽がなかったら何の仕事をやろう?」と途方に暮れる可能性のある世代ですからね。この20年くらいで音楽を巡る環境は激変したし、せめて音楽を作る場所くらいは整備しないと。今回のプロジェクトは、自分自身が肌身で感じている危機感の表れでもあると思います。

――なるほど。今回は後藤さんが1000万円の寄付を行うほか、自費で集めたスタジオの機材(取得価格は1000万円超)も投入されるとか。後藤さん自身の負担も相当だと思うのですが。

 あまり負担だと思ってないんですよね、それが。この先たくさんの人がスタジオで作業して、カッコいいアルバムがたくさん出来るんだったら、そんな作品が聴けることを自分の利益にしようと思っていて。不思議なくらい「損した」みたいな気持ちがないんですよ。

(取材・構成/森 朋之)

*クラウドファンディングの詳細はこちら
https://camp-fire.jp/projects/771536/view
支援受付期間:2024年9月27日(金)〜12月15日(日)

ごとう・まさふみ/1976年静岡県生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを担当し、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。Gotch名義でソロ音源も発表。今年、"後藤正文"名義で初の音楽作品となるドローン/アンビエント・アルバム『Recent Report I』をリリース。レーベル「only in dreams」主宰。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長も務める。2018年からは新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』を立ち上げた。著書も多数あり。2023年には朝日新聞の連載エッセーをまとめた書籍『朝からロック』(朝日新聞出版)を上梓。音楽、社会、政治、そしてコロナ禍のなかで考え、気づいたことを記している。ミュージシャンの枠にとらわれず幅広く活躍している。

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