「一人で曲を作れる人がいるのに、バンドの録音ってどうしてこんなにお金がかかるの?」という。既に売れているバンドは大丈夫かもしれないですが、制作費がどんどんシビアになっていくなか、どうしてもDTMでつくる人のほうが有利なんですよね。とはいえ、バンドのレコーディングやライブの設営のノウハウは受け継がれるべきだし、途絶えてはいけない。ミュージシャンだけではなく、レコーディングエンジニアもそう。30代より若いエンジニアで、アナログテープで録音できる人はほとんどいないだろうし、技術の継承は大きな課題だと思っています。

空き家となっていた土蔵をスタジオに改築

明治時代から残るお茶の倉庫(土蔵)をスタジオに改築する(写真/八木 咲)

――スタジオの建築予定地は、静岡県藤枝市。明治時代から残るお茶の倉庫(土蔵)をスタジオに改築するというプロジェクトです。

 静岡は僕の地元なんですけれど、たまたま友人が役所の空き家対策課に配属になったんです。静岡には古くからあるお茶の倉庫がたくさん残っていて、売りに出ている物件もある。スタジオ建設を考え始めたときに、ちょうどいいタイミングで出合ったのが藤枝市の土蔵だったんです。ただ、工事はかなり大変で。まずは宮大工の皆さんに蔵を補修してもらって、全体を釣り上げて基礎工事を強化する。つまり曳家ですよね。もちろん防音や耐震工事も必要だし、昨今の資材の高騰もあって、立てている予算をオーバーする可能性もあります。

――蔵自体を残す目的もある、と。

 そうですね。更地にして新たに建てるほうが安くできるんですけど、それだと「どこでもいい」という話になるじゃないですか。あと、文化的な価値のある建物を壊して、どんどん新しいものを建てるのはそろそろ止めたほうがいいと思っていて。街の景観や溶け込み方を含めて、蔵を活かしてつくったほうが長く残る可能性が高いんじゃないかなと。どう考えても価値のあった東急文化村のBunkamuraスタジオが閉鎖されるくらいだから、新築のスタジオを作っても、どれくらい続けられるかわからない。スタジオをできるだけ存続させるためにも、蔵を再利用するのがいいと思ったんですよね。過去の人たちから手渡されたものを直したり、より良くして、未来の世代にパスすることで長く愛される場所になるんじゃないかなと。街の記憶を保つことも藤枝にとっては大事なことだろうし。街を歩くなかで、そういう気持ちが高まったところもありますね。

築約130年の土壁(つちかべ)の蔵は、茶倉庫として使われていた(写真/八木 咲)
後藤さんがスタジオ建設を考え始めたときに、ちょうどいいタイミングで出合ったのが藤枝市の土蔵だったという(写真/八木 咲)
スタジオは蔵のつくりをいかして建設する予定(写真/八木 咲)
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