西崎さんによると、濱口監督は「傷ついた男性が再生するストーリーです。原爆から復興した広島は物語の舞台にぴったりだった」と話したという。

 デジタルロケ地マップをウェブで公開したところ、閲覧数は285万回以上に伸びた。

「主演の西島秀俊さん、三浦透子さんと同じように、ごみ焼却工場の海辺でたたずむ人たちを見かけます」(西崎さん)

 その一人、広島市の会社員男性(23)は昨年夏に劇場で見た。

「とても繊細なストーリーだったので、あの言葉はどういう意味だったんだろうと、同じ景色を見てみたくなりました。西島さんや三浦さんと同じように海辺で座って考えてみました」

 物語のクライマックスである演劇の上演シーンには、東広島市の東広島芸術文化ホール「くらら」が使われた。朝日新聞によると、濱口監督は

「くららを村上春樹さんの聖地にしましょう」とスタッフに話した。
 実際、ホールには「あの大ホールに行ってみたい」「あそこで演じてみたい」と問い合わせが寄せられているという。東広島市教育委員会文化課の菅原清治さんはこう話す。

「音響を初めとしたホールの懐の深さが、映画でも生かされていたように思います。いつも見ているホールですが、映画で見ると雰囲気が違い、洗練されていました」

(編集部・小長光哲郎、井上有紀子)

AERA 2023年4月17日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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