日本全国にハルキストたちが集う「聖地」がある。ファンはなぜ「巡礼」するのか。そこで何に思いをはせるのか。関係者やファンに聞いた。AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。
【写真】「村上春樹ライブラリー」にある村上さんの書斎を再現したコーナー
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「『イベントで訪れたときに村上春樹さんご本人を見かけて、感銘を受けた』という感想はとても多くの方から寄せられます」
こう話すのは、東京都新宿区にある「早稲田大学国際文学館」(村上春樹ライブラリー)の館長、十重田裕一さん(文学学術院教授)だ。村上ファンにとっての「聖地」は数あれど、「行けば村上さんに会えるかも」はここだけかもしれない。
開館は2021年10月。きっかけは18年、村上さんの所有する書籍やレコードなどの資料(現時点で約5800点)が大学に寄託・寄贈されることになったことだ。館内には村上作品(翻訳書含む)や関連書など閲覧スペースで読める蔵書が約3千冊。企画展示コーナーや、村上さんの書斎を忠実に再現して所蔵レコードも飾られた部屋、村上さんが1970年代に経営していた東京・千駄ケ谷のジャズ喫茶「ピーターキャット」で使われていたグランドピアノが置かれたカフェなどもある。
何よりも驚くのは、村上さんがこのライブラリーに積極的に関与していること。ライブラリーでは村上さんが発案し、ライブラリー顧問のロバート キャンベル早大特命教授が企画する朗読会「Authors Alive!~作家に会おう~」の開催などイベントも充実。村上さんが登壇することもあるという。十重田さんはこう話す。
「たとえば(小説家の)小川洋子さんや(ギタリストの)村治佳織さんと村上さんが対談と朗読をした会はとても好評でした。村上さんも私たちも、ここを単なる文学資料館ではなく、文化交流施設にしたいという思いで一致していました。早稲田大学の中にあるけれど、国内外のすべての方のための開放的で風通しのいい空間にしたいと」
その思いもあり、海外からの来訪者が便利なように半分は予約枠を設ける一方で、半分はぶらりと訪れた人でも入れるような仕組みにしているという。
村上さんはこのライブラリーに「物語を拓(ひら)こう、心を語ろう」という言葉を贈った。
「それぞれの方が紡ぐ自分の物語がある。それを拓きながら交流していく。文学館のイメージにとらわれない場にしていきたいと思います」(十重田さん)