日本競泳界「期待の若手」村佐達也
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 これほど、中高生たちの活躍が心強く感じたことはなかった。

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 メダル1という厳しい現実に、先人たちが築き上げてきた栄光など吹き飛んでしまったパリ五輪。

『この先の競泳界は大丈夫か?』と鬱積した気持ちが皆に広がる中、明るい未来が広がる兆しを見せつけてくれた選手たちがいる。それが、中高生の若手スイマーたちだ。

 パリ五輪が終わって2週間後、佐賀県で開催されたインターハイで、ひとりの男が躍動していた。

 100m自由形で高校生として初となる48秒台に突入する、48秒99の日本高校新記録を樹立。さらにパリ五輪の代表権を獲得した200m自由形でも、自身が持つ高校記録には及ばなかったものの1分46秒台と日本トップの記録を安定して出し続けている。それが、中京大中京高校の村佐達也である。

 今年3月のパリ五輪の選考会では、200m自由形でリレー代表の座を射とめた。その後のインタビューなどでは、少し緊張感もあり控えめな印象が強かったが、インターハイではその弾けぶりに驚いた。リレー種目では率先してチームを盛り上げ、レース前もレース後も、常に笑顔で観客席にいるチームメイトや応援団に手を振っていた。100m自由形で高校記録を樹立したときは、パリ五輪で話題になった『無課金おじさん』ポーズで歓声に応えている。まさに『お調子者』という言葉がピッタリなほど、楽しそうにレースを振り返りながら、チームメイトたちと戦えるうれしさを噛みしめているようだった。

 村佐はその後の同じ佐賀県で開催された国民スポーツ大会でも爆発。100m自由形ではインターハイの自己ベストをさらに更新し、48秒87まで記録を伸ばした。元々1500m自由形を専門とする、長距離選手だった村佐。その持久力がスピードにも生かされ、100mでも200mでも、後半に入ったところから一気に他を引き離すレースを見せる。100mや200mに取り組んでからまだ2年と、大きな伸びしろを感じさせ、今後の日本代表の中核を担っていくであろう選手に成長してくれた。

 今後の課題はスピードではあるが、それに特化するのは危険だ。しっかりと長距離のトレーニングを積んでいる土台があってこそ、村佐は輝く。短距離のトレーニングは1500mの選手などに比べると練習時間も量も短くなりやすい。もし村佐がそれに甘んじてしまったら、この先はあまり記録は変わらないことだろう。お調子者ではあるが、インタビューに対してしっかりと自分の言葉で受け答えする姿を見ていると、決して勢いだけで記録を伸ばしている選手ではないことは確かだ。来年からは大学生になる村佐。自由形の100m、200mで活躍できる選手は、リレーを強くしたい今の日本にとって必要不可欠な存在である。この先、リレーも含めて日本代表チームを支える存在になる。村佐はそんな未来を見させてくれる泳ぎを披露してくれた。

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村佐以外にも“若い力”が躍動