「男性脳」vs「女性脳」

 社会との関わり方や、行動、思考パターンなどには男女差があると、古くからいわれてきましたし、実際にこれらを裏付ける研究報告も存在しています。これらの性差は、男女の脳に違いがあるためだと考えられてきました。

 1999年に発行された“Why Men Donʼt Listen and Women Canʼt Read Maps”『話を聞かない男、地図が読めない女』(藤井留美訳、主婦の友社)は、世界的な大ベストセラーとなりました。アラン・ピーズとバーバラ・ピーズ夫妻が手がけたこの著書は、実体験やユーモアがたっぷりと盛り込まれ、日本でも大変な話題となりました。

 日本語版の本の表紙には、副題として『男脳・女脳が「謎」を解く』とあります。

 この著書をきっかけに、とまではいえないかもしれませんが、「男性脳」と「女性脳」という捉え方は一般社会にも浸透してきました。

 女性の「共感指向」に対し、男性の「解決指向」もよく耳にします。相談をした際に、女性は相談相手に話を聞いてもらって共感して欲しいのに対し、男性は具体的な解決の提案を求める、というようなことです。このように、脳に関しては男女間で対比した扱いがされてきました。

脳に性差はあるのか?

 実際に私たちの脳に、男女差はあるのでしょうか?

 脳を起因とした疾患や行動、認知機能には性差が見られます。疾患の例としては、男性に発症リスクが高いものとしては、ADHD(注意欠如・多動性障害)、自閉症、失読症、吃音(どもり)、トゥレット症、若年性統合失調症などがあります。女性に発症リスクが高いものとしては、拒食症、過食症、遅発性統合失調症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、うつ病などです。

 また、行動や認知機能においては、古くから攻撃性やリスクテイク、メンタルローテーション、顔表情認知などに性差があると知られてきました。これら疾患や脳機能に性差が見られることから、脳の組織において何らかの性差が存在するのであろうと考えられてきました。

 男女の脳の違いを明らかにしようとする研究は、古典的な解剖学的研究や実験動物を用いた研究など古くから行われてきています。こういった研究から、以前は脳の形や大きさに男女で違いがあると考えられていました。また、ある特定の神経核や脳の領域は、形や大きさなどが男女間で異なると捉えられていたのです。

 例えば、右脳と左脳をつなぐ脳梁という部分について、男性よりも女性のほうが太いということは、脳の研究分野では広く知られていました。しかし、これは今から40年以上も前の1982年に、男性9人、女性5人という限られた数の解剖データを基に報告されたもので、現在では否定されています。

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