男性なら誰もがスポーツや遊びで股間を強打し、激痛にのたうち回った経験があるだろう。軽くとらえられがちな話だが、数多くの患者を診てきた医師によると、すぐに病院に来る必要があったのに、我慢して取り返しのつかない事態になったケースもあるという。特に思春期の中高生は、「恥ずかしい」「言えない」とためらってしまうことが多いそうだ。突然の“悲劇”に遭ったとき、一体どうすれば良いのか。
夏の甲子園をかけた千葉大会の一戦。打者がチップした打球が、捕手の股間を直撃した。
悶絶してうずくまる捕手。そばにいた主審も、駆け寄った味方の選手も、見守る以外ない。静まり返るスタンド……。この日は気温35度の猛暑だったが、見ているこちらも背筋が寒くなる思いがした。
30年前に高校球児だった筆者も、捕手を務めた試合で同じ経験をして激痛にのたうち回った。試合後も吐き気がして、顔色が悪いと仲間に心配されたほどだった。
「玉が上に上がるからジャンプして落とす」「腰をたたいて上がった玉を下げてあげる」
当時は、そんな“応急処置”がまかり通っていたが、果たして正しかったのか。あの時の激痛は今でも覚えているのに、知識はまったくブラッシュアップされていないことに気が付いた。
球児に戻ったつもりで、当時、思い悩んだことを医師に聞いてみた。
答えてくれたのは五本木クリニックの桑満おさむ院長。泌尿器科医の桑満先生は、睾丸(こうがん)を打撲したり損傷したりした患者を数多く診察し、治療にあたってきた。
ジャンプする、腰をたたく、は正しい処置?
――野球の試合で打球が股間を直撃して、声も出ないほど痛かったんです。頑張ってジャンプしたんですが、全然効果がなくて
「ジャンプしたり、腰をたたいたりしてあげろなんて、昔から言われましたよね。実はあれ、医学的にはまったく意味がありません」
――え! 監督や周囲の大人もそう言っていたはずなんですが、ウソだったんですか?
「痛みや恐怖を感じると、睾丸が上に上がるのは事実なんです。なので、下げればいいのではないかという“都市伝説”が生まれたのかもしれません。時間がたてば、自然に下がっていくんですよ」