時折示す映画にまつわる濱口の映画技法が印象的だった。
「コントロールできなさに適応しつつ、演出していく。仕掛けを作り、思いもよらない反応が出てくるのが一番面白い」「タイトルが大事。タイトルと物語が醸し出す緊張感を味わってほしい」
注目されたラストシーンについては、「人間の怖さが最後でドン!と現れる。分からなかった人間の本性が雪原の中でうわーっと目の前にくる。大美賀均を主役にしてよかった」という。彼は素人で、当初スタッフとして参加していた。朴訥と薪を割り続ける彼が発するのは刈り込まれた最小限のセリフ。「喋らないと怖い。ごく少ないセリフを積み上げたんです」。もう一つはカメラの置き方。「カメラは精密。カメラの知覚には微細な発見があるんです。三人称性というか、客観性がある。だから三脚をどこに立てるか考えた」
冒頭に「神話」と記したが、神話はこの技法の上に生まれた。そして、集中の末に生まれる「偶然という恩寵」に恵まれたとも濱口は言う。
行方不明になり姿を消す少女も森の精霊のようだった。開発者を絞め殺した父の所作はその森の総意なのだとも。「開発」などという体のいい語彙ではなく、「破壊」なのだとこの作品は示していた。
(文・延江 浩)
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