
NPO法人日本トラベルヘルパー協会の篠塚恭一会長は言う。
「介護が社会化され、介護者も高齢化してきた。お金で買える親孝行があるならそれも良しと、考えるようになってきていると思います」
旅先で入浴介助だけ
ただ決して安くはない。トラベルヘルパー利用に介護保険は適用されず、すべて自己負担だ。前述した102歳のケースでは、利用料金は1日の基本料(8時間)3万9600円×2日分、延長料金(2時間半延長で、1万5465円)、同室に宿泊した料金(5500円)、夜間の介助料金(6600円)が加算され、そのほかトラベルヘルパーの宿泊費や移動交通費、保険料金などが加わる。
「旅先で入浴介助だけ、という依頼もできます。東伊豆や箱根などの観光地ではトラベルヘルパーが地元の人たちと連携し、活動しています」(篠塚会長)
施設などハード面だけでなく、ソフト面のバリアフリー化に取り組む宿も増えてきている。
旅行弱者に寄り添う旅館として人気の「ホテル松本楼」(群馬・伊香保)は車いすで脱衣場まで入れるバリアフリー貸切風呂や、露天風呂付きバリアフリールームなど充実。食事にも配慮がある。嚥下(えんげ)機能が落ちた人には、ミキサー食や刻み食を提供。同行者と同じ器で出す。3年前には食の細い高齢者向けに「ハーフ懐石」も開始した。介護旅で必要になる車いす、高座いす失禁対策の防水シーツなどのレンタル品も用意している。
従業員は視覚障害者への料理の説明など、基本的な対応は行うが、入浴介助など本格的なものは外部の利用を勧めている。金額は要介護度によるが、1時間2500円から(別途交通費)。
女将(おかみ)の松本由起さんは話す。
「介護施設で暮らしている方にとって、温泉は貴重な体験。お子さんが『最後の旅行になるかもしれない』と親御さんをお連れになるケースがとても多いです。先日も旅行にいらっしゃった後に『あの後に亡くなりました』と遺影を持ってお見えになった方がいました。ご家族が手をつないでいたり、お孫さんがおばあちゃんの手をとって階段を1段ずつ下りていたりしているのを見て、ほほえましいなと。そのために旅館があるのではと思うほどです」