もし、5歳までは、大きな声で歌って、感情を表現していたとしたら、6歳の時に何があったのか、なんの理由で感情表現を抑えたのかを考えるといいと思います。

 「自分の考えがなくて(略)うまく答えられません」ということに関しては、「全部ですか?すべてに自分の考えはありませんか?」と聞きたいです。

 僕の友人に、とても感情表現が抑え気味で、人づきあいも下手で、口数が少ない女性がいます。でも、彼女には、好きな音楽のジャンルがあって、好きなアーティストやバンドがいくつかあります。

 そのことに関してだけは、譲らない考えを持っています。もちろん、口数が少ないですから、口に出しては言わないし、感情表現が淡白ですから、表にも出さないのですが、頑固に自説を曲げないんだなと感じます。

 りりかさん。

 「どうすれば人間らしく、好奇心や興味を持って、人と接することができるのでしょうか?」

 と書かれていますが、りりかさんのいう「人間らしく」は、とてもハードルが高いと僕は感じます。

 「誰とでもすぐに友達になれて、ポンポンと会話のキャッチボールをして、自分の意見がはっきりあって、表情や感情豊かな人間」なんてイメージです。

 こんな人は、なかなかいないと思います。というか、実在したら、完璧過ぎて、ちょっとうっとおしくないですか(笑)。

 りりかさん。りりかさんは、僕がこの欄でよく書いている「0か100症候群」だと思います。自分は「0」だから、「100」を目指そうと思う気持ちです。

 でもね、「45」点とか「69」点とかで人生は生きていくものです。

 りりかさんには、「ちょっと好き」とか「なんとなく波長が合う」「これは大切にしたい」と思うことはないですか?それを大事にしていくことが、りりかさんが「人間らしく」生きることになるんじゃないかと僕は思います。

 誰とでも仲良くしなくていい。誰にでも愛想よくする必要はない。仕事は情報を共有する必要がありますが、それは友達になることとは違います。

 波長の合う人と、自分が「少し好きなこと」を、口数少なく、感情を抑え気味で話し合うのも、とても「人間らしい」生き方だと僕は思います。

 まずは、「100」を目指して焦ることを、自分を否定することをやめることから始めるといいと、僕は思います。りりかさん、どうですか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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