PEZYは世界的にも有望視されていた

 さらに、発熱が抑えられることで、例えば5ナノの半導体でも3ナノ以上の性能と効率を達成することが可能になるだろう。現在、最先端半導体は5ナノから3ナノへの移行が進んでいる。3ナノのラインは逼迫しているが、今後は5ナノのラインが空いてくる。そうなれば、5ナノの半導体を調達して、3ナノと同等以上の性能のデータセンターを作ることも可能だ。

 しかも、データセンターの体積を数十分の1に縮小できる。

 しかも、これらの達成には、それほどの時間は要しないと思われる。

 今回の発表で齊藤氏が創業したPEZYグループ(ZYRQも大きな意味ではPEZYグループとみなした場合)とその比類ない研究開発能力が依然として健在であることが、間接的にITRIにより証明されたと言える。

 実はPEZYは、補助金詐欺事件に巻き込まれる直前には、当時の最先端であった5ナノのGPGPU開発に着手済みで、世界的にもNVIDIAを追いかける2番手企業として有望視されていた。またPEZYグループのメモリ開発を手掛けるウルトラメモリは旧エルピーダメモリの先端開発チームから多数の技術者が移籍しており、最大手3社以外のメモリベンダーでは、HBMの設計開発を行った実績を有する唯一の企業である。つまり、PEZYグループはGPGPU用のロジック半導体とHBMメモリ半導体の双方を開発できるという意味では他には世界にサムスンしか存在しない希少な企業グループであり、メモリ半導体を統合開発できるという意味ではNVIDIAをも超える開発能力を有しているとも言える貴重な我が国の企業グループであるということになる。そして、PEZY本体は、省エネスパコンで世界最高水準を達成した日本一のスパコンメーカーでもある。TSMC系の台湾有力企業の関係者に2年前に聞いたところ、日本ではPEZYがスパコン、半導体いずれでも最先端を行くことはTSMCも認めているという話だった。

 経済産業省も一時はそんなPEZYに賭けようとしていたくらいだ。

 その後もPEZYはさらなる進化を遂げ、日本で最初にTSMCから3ナノの半導体の開発環境の提供を受けて、現在はそれを元に3ナノのGPGPUも開発中だという。少なくとも5ナノの国産GPGPUについては、ロジック半導体もHBMメモリ半導体も、あとは、量産の発注を行う初期費用資金面の手当さえつけばという段階に入っている。

今回の冷却技術を使えば、5ナノのGPGPUと少し大きめのHBMを、歩留まりを上げて生産し、CoWoSに頼らない従来型のパッケージングで大量に生成AI用半導体を作ることができる。歩留まりが大幅に向上することと、最先端製造ラインを使用しないこと、そして高価なCoWoSパッケージを使用しないで済むとすれば、量産価格も性能比でNVIDIAの主力製品の半額程度までは下がるだろう。しかも低温冷却で性能は3ナノを使ったものに劣らないか悪く見てもチップ1個あたりで7〜8割の性能を出せる可能性がある。

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新技術は世界の電力不足、水不足の救世主となれるのか