調印式で挨拶するPEZY創業者の齊藤元章氏=24年7月、小山歩撮影

「不可能」を「可能」にした新しい冷却技術

 今回開発された全く新しい液浸方式の「水浸」冷却技術は、これまで絶対に不可能だと言われてきた一般的な「水」のみを使うことが最大の特徴である。水浸槽内を内循環させる主冷媒としては一般的な水道水のみを利用し、水浸槽毎に設置される熱交換器を介して内循環する水に熱伝導させるために水浸槽外部で外循環させる二次冷媒には、自然水である地下水、河川水、湖沼水、海水などを利用可能ということであり、普通の人から見ると、そんなに簡単な方法はあるのかという疑問が湧く話だ。

 そもそも、水に浸して冷やせるなら誰でもそうするはずだが、高い導電性を有する水に電子部品や電子基板を浸すと、どんなに密閉性を高めてもショートする現象が起きて、半導体を全損してしまうリスクが極めて高いと思うものだ。現に、これまで、専門家の間では、そんなことは無理だとしてほとんどその研究は行われていなかった。

 齊藤氏は、もともとPFASなどを使った液浸技術を用いたスーパーコンピューターの開発を10年にわたり手がけていて、一時は省エネスパコンの世界ランキングで1位から3位までを複数回独占して一世を風靡した経歴の持ち主だ。

 その齊藤氏が、今回は必要に迫られて水に浸して冷やす技術に挑戦すると決めた時、ZYRQの技術者達ですら、「いくらなんでも無理だろう」と思ったと筆者に語ってくれたのを覚えている。

 しかし、スパコン開発で不可能を可能とした齊藤氏は、今回もまた「無理を可能に」してしまった。それも2023年2月に開発に着手して1年程度で完全に目処をつけ、既に8件もの特許申請まで完了している。その後、基本構成にも数回にわたり大幅な刷新を行い、現在は1年5カ月にして既に第5世代にまで達している。その圧倒的な独創性と驚異的な研究開発速度こそが齊藤氏の真骨頂であり、大手企業では最低でも数年を要するであろう開発を、僅か2~3カ月で矢継ぎ早に刷新していく状況を目の当たりにした台湾ITRIの研究員達も、その開発進捗はにわかには信じ難かったのだという。

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従来の半分の電力でも冷却可能に