7月19日、驚くべき記者発表が行われた。
ZYRQというほとんど知られていない日本の新興企業と、半導体技術では世界最高峰と言われる台湾の公的機関ITRI(工業技術研究院)による共催である。
発表された内容は、全く新しい「水浸」冷却方式による次世代生成AIデータセンター冷却技術を両者が共同開発する契約に調印するというものだ。
と言ってもなんのことかさっぱりわからないだろう。
19日に行われた調印式とその後の記者への説明を聞いても普通の人にはなかなか難しい内容だ。
筆者はこの分野の専門家ではないが、実は、この技術を開発した齊藤元章氏とは2年以上前から交流を続けてきており、その過程でこの話を詳しく取材し続けてきた。今回の記者発表で、ようやく広く一般の人に伝えることが許される。
そこで、なんとか少しでもわかりやすく、何がすごいのかを解説したいのだが、技術の内容がかなり高度なので、あまり短くするとわかりにくくなってしまう。
そのため、通常の本コラムの8割増しの長文になってしまったが、非常に重要な情報なので、ぜひ最後まで読んでいただくことをお願いしたい。
ChatGPTの登場以来、世界中の生成AIブームは止とどまるところを知らぬ勢いで拡大している。生成AIが世界を変えると言われる中で、これを利用するために必要な生成AI用の大規模データセンターの需要も急拡大している。そして、それに必要な最先端半導体の需要の爆発的拡大も想像を超えたものとなった。
生成AIデータセンターの頭脳であるGPGPU(汎用GPU)を構成するのには、計算を行う本体である巨大なロジック半導体と、大容量のデータを高速に読み書きするためのHBMという最先端の多積層メモリ半導体の複数が必要である。前者は米国のNVIDIAが市場をほぼ独占しており、その半導体製造を請け負うのも台湾のTSMCほぼ1社の独占だ。また、HBMは韓国のSKハイニクスとサムスン、米国のマイクロンの計3社しか量産製造ができておらず、しかも、各社とも歩留まりを上げるのに大変な苦労をしてきながらも量産数量の増加が限定的である。さらに、巨大なロジック半導体とHBMメモリの複数を極めて高精度にパッケージングする「CoWoS(コワース)」と呼ばれる後工程はTSMCの独占である。