最新技術は米中との差を縮める一手なるか

 これらの半導体については全てPEZYグループで開発し、GPGPUのロジック半導体は今後空きが出てくると見込まれるTSMCの5ナノラインで潤沢に生産し、HBMメモリ半導体は台湾の他のメモリベンダーで委託製造を行う。CoWoSでないパッケージ工程は従来技術を使えることで、委託先は国内外にいくつも想定できる。

 ちなみに、NVIDIAは4ナノのGPGPUを中国向けに150万個供給すると報じられている。米国政府の規制をうまくかいくぐるやり方を見つけたようだ。

 このままでは、日本は最先端の半導体調達が遅れ、その間に米中との差は広がるばかりということになる。

 そこのギャップを埋める鍵こそが、まさに今回の水浸冷却技術なのだ。

 ここまでの解説で、今回の発表がいかに重大な意味を有するのかをなんとかご理解いただけたのではないかと思うが、専門家ではない筆者の言葉だけではまだ信用できないという方がいるかもしれない。

 そういう方に、最後にお伝えしたいのが、今回の調印式に来賓として招かれた台湾の1兆円規模の世界的な半導体バックエンドベンダー2社、GUCとAlchipの代表の挨拶だ。

 半導体バックエンドベンダーとは、演算回路やメモリ回路を企画・論理設計するPEZYのようなフロントエンドベンダーに対して、論理設計された内容を半導体として製造してもらうための「レイアウト設計」を担う企業だ。フロントエンドベンダーとTSMCなどのファウンドリー(受託製造企業)との間に立って綿密な連携を行うため、半導体製造全体について極めて豊富な知見を有している。この両社の代表が来賓として今回の技術について最大級の賛辞を送ったことを知れば、多くの方が、納得されるのではないかと思う。

 念の為、そのうちの1社GUC(TSMCが大口株主であることで、TSMC系の大手として知られる)の代表の挨拶をごく一部引用しておこう。

 「GUCは、……齊藤氏とは、10年以上の長きにわたって、最先端の大規模半導体の開発を進めてまいりました。その間には世界的な実績を複数回達成しております」「今回開発された革新的な水浸冷却技術との組み合わせによって、日本の国産GPGPUとなりうる5ナノプロセスで製造する次世代半導体を、今日現在も一緒に鋭意開発中であり……近くTSMCにてその量産が実現されるものと信じております」「25度という低温での1000W級の半導体冷却が実現しますことで、これまでは不可能であった、全く新しい半導体開発が可能となります」

 台湾のITRIと、齊藤元章氏が創業したPEZYグループにより、日本の生成AIと先端半導体産業の窮地からの脱却が果たせるのか。

 また、日本のデジタル赤字の削減、電力不足の回避、さらには生成AI活用の遅れによるあらゆる産業分野・科学技術分野・基礎研究分野での競争力の低下、軍事技術での劣勢を含む国家安全保障の危機回避という大きな効果を生み出せるのか。

 さらには、世界の電力不足、水資源不足の救世主となれるのか。

 今後の展開を、期待を込めて見守っていきたい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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