熊本県にある台湾積体電路製造(TSMC)の第1工場=24年2月

米国に後れをとる日本の生成Aiデータセンター

 そして、これらすべてのラインが需要の激増に全く追いつけず、その結果、最先端の生成AIデータセンター用のGPGPUを入手できるのは、GAFAMやテスラなどの米大手IT企業に限られ、日本などは、売ってもらえてもほんの少量で、しかも納品は長期間待たされるという事態になっている。完全なボトルネック状態なのだ。

 さらに、生成AIデータセンターをめぐっては困難な状況が他にも生じている。

 最大の問題は、電力需要の急拡大だ。各種の推計があるが、このまま行くと2030年から35年には世界の電力需要の8〜20%にもなり、深刻な電力不足が生じるとされる。

 また、GPGPUの高性能化に伴いGPGPU1個の電力消費量が従来の300W程度から現状で700W、さらに年内にも1000Wを超えることが確定していて、それは電力消費の増大とともに、発熱量の急増という問題を引き起こしている。GPGPUは温度が高くなるとその性能が落ち、さらに消費電力も著しく増加するため、発熱があってもそれを何とか冷却する必要がある。そもそも、半導体は稼働時の温度が105度を超えてしまうと動作できないため、何とか温度を105度までに抑えることが必要である。

 これを冷却するために従来は空冷方式が利用されていた。その空気を冷やす目的で、水を蒸発させる際の気化熱を利用する冷却塔を使う方式も使われてきたが、これには大量の水が必要で、水資源不足による限界もある上に、それを使っても十分な冷却効果が得られないということで、徐々に、液冷方式(詳しいことは省く。水冷を含む)、さらには液浸方式の開発が行われてきた。液浸とは、電気を通さない合成油やシリコンオイル、フッ化炭素化合物のフロリナートなどの液体に、電子基板全体を浸漬させて直接的に冷却する技術であり、最も効率が高く、しかも必要な体積も小さいという利点もあり、いずれはそれが主流になると考えられていた。

 しかし、フロリナートは昨年から大問題となっている「PFAS(有機フッ素化合物)」であり、開発製造元の米3Mが製造中止を決定している。そこで、現在では鉱物油や合成油などを使う油浸方式を中心に開発が行われている。しかし、こちらも、高い粘性で保守が困難であり、部品の再利用にも支障を来す鉱物油や合成油、シリコンオイルを使用する必要があり、本格的な普及には大きな困難が伴うということで、八方塞がりの状況となっていた。

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絶対に不可能を可能にする技術を開発